「昔は編み物というと家計を助けるためにする実用的なものでしたよね。でも今はファッション。高級なお洒落を楽しむためにするんですよ」。
大網白里町の主婦・石橋まり子さんは、自宅をはじめとする4カ所の会場で編み物のサークルを主宰する。
自宅でのサークル名称は地域名からとって「わらび台」、他の会場として、公民館は「オリーブ」、中部コミュニティは「アムウ」、老人福祉センター・コスモス荘では「コスモス」。
メンバーはそれぞれ自分の行きやすい会場に足を運ぶというわけだ。
ちなみに現在、編み物は出版社である日本ヴォーグ社が初めて系統だてて理論的に整理したもの。昔は製図がなく勘で編んでいたというからその功績は大きい。
雪国(富山)に生まれた石橋さんも、当初は自己流で実用性を主眼に編み物と関わっていたが、製図という概念が生まれて以降、本を見て同じように編むことから始め、いろいろな編み方を知ったことでさらに多様な編み方に次々と挑戦、編み物の持つ奥深さにとりつかれた。
そして、その魅力を広めたいと、講師を経て、平成5年には(社)日本編物文化協会が認定する〈手編み指導員〉に、続いて平成9年には同協会ならびに(財)日本手芸普及協会、日本ヴォーグ社が認定する〈手編み師範〉となり、これで教える側としてのトップの資格を取得することになる。
サークルのメンバーには、より高度な技術を学びたいという編み物経験者もいれば、まったくの素人もいる。確実に言えるのは「1年続けばずっと続く」ということ。作品を1つ完成させると、またすぐ次の作品に取組みたくなるからだという。
「編み物は器用さは関係ない。器用さでなく根気。逆に言えば、編み物で根気を養えるのかも知れませんね」
メンバーのひとりは言う。「編み物は頭を使うから苦しいんだけど、それ以上に楽しい。編んでる過程が好き。みんな明るいのでおしゃべりするのも楽しみの1つだけど、とにかくイヤなこと忘れて必死になれる」。
また、別のメンバーいわく「ストレス解消。頭だけじゃなく、手先も使うからボケない」。これについては、60歳以上対象の「コスモス荘」のメンバーにも言え、一人暮らしのさみしさを手先を動かすことで忘れたり、編み物を通して友達をつくるという副産物も生み出しているという。編み物は足が悪くてもできるし、また痴呆症でも若い頃に習った編み物は体で覚えているとのことだ。
多くのメンバーに共通するのは、ヒマだから編み物をしているのではなく、仕事を持っていたりと多忙ななか少しの間を惜しんで編んでいるということ。「ヒマな人ほど何もしてないものですよ」
もちろん、作る過程だけでなくより高度な作品を完成させようとする意欲も旺盛だ。
とかく古いイメージをもたれがちな編み物だが、例えば、編み物界のアイドルと言われる広瀬光治が広めた魔法の一本針(身障者でも高齢者でも1本の針で容易に編める)や割り箸を使う編み方や指編みは道具を使わず、糸の素材も、また編み方自体も日々新しいものがでてくる状況だからこそ、「やればやるほど難しいのが編み物。だからこそ完成した時の達成感は大きい」。
実際、5〜6年前につくったものを見て、今は随分と腕があがったと実感することも多いという。
そういう時こそ「編み返し」ができるのが手編みの良さ。1着分1万円ほどの糸を使えば相当な高級セーターができるが、長く着たあとにも編み返しにより何回でも新しいセーターに生まれ変わらせることができる。加えて、手編みは暖かく「1度慣れてしまうと既製品は着られない」とも。
ところで、サークルでは製図通りに製作することはほとんどない。自分なりにアレンジして「世界に1つ」の自分だけのファッションを楽しむからだ。
編み物をする人の目で見ると、手編みと既製品との違いは明らかとのことで、「素敵な手編みのセーターを着ている人には思わずついていって『どうやって編んだんですか?』って聞くんですよ」とメンバーのひとりは笑う。
孫専門に編み物をするメンバーもいる。「友達の孫に手編みのセーターをプレゼントしたらその友達が刺激されて編み物をはじめた」ケースもあるし、大きな作品を完成させるなかであまった1玉を使って小物を編んでいると、孫がそばを離れず、かぎ針を教えたりするケースも珍しくないとのことだ。
「おばあちゃんの指導で小学校2年生の孫が靴下を編んだんですよ」とうれしそうに話すのもメンバーのひとり。まさに1本の糸は、様々なものを結び、暖かさを作り出す。
なお、サークルの会費は1回800円程度。作品見本の糸代や本代など石橋さんの負担を減らす意味での金額となっている。
(富川)