九十九里浜の地曳き網は古くからの伝統漁法で、全国的にも有名だ。一宮でも江戸時代には地曳き網漁が始まったといわれており、戦前までは主にイワシを捕るために紀伊や摂津など県外から漁師がやってきたほど盛況だった。しかし戦後、イワシやアジなどが沿岸に寄らなくなるなどの原因から徐々に衰退し、後継者もいなくなった。
この伝統漁法を保存しようと、20年前『一宮地曳網保存会(伊藤博会長)』が設立され、一宮の地曳き網漁が復活した。
「20年前までは櫓をこぎながら波が打ち寄せる浜から船をだしたもんさ。波なんておっかなくない。一宮の漁師は気性が荒くて、ちょっと波が高くても船を出したよ」と古くからいるメンバー。
現在は2トンの漁船で漁をするが、浜から波打ち際まで船を押しながら運ぶ。大勢が協力しないと船は動かない。波がきたときのタイミングをみながら船尾を丸太で押す人、波に船体が傾かぬよう船首につけたロープを引っ張る人の威勢のよい掛け声とともに海に船を出すのは圧巻だ。
保存会のメンバーは約200名。地曳き網をひく期間は6月から9月いっぱいで、その日参加するメンバーが出席簿代わりの名前が書かれた木札を箱の中に入れ、それぞれの作業を行う。
船が沖合い700mまで網を仕掛けながら一回りするのが約15分。あとは2時間かけて、『こしび』という腰につけるロープを使って網をひく。
「網を引っ張る時、後ろ足で歩くので、ひざの裏が伸び、足腰が丈夫になりますよ。60才を過ぎても元気なのは地曳き網をひいているからかも」と女性のメンバー。
この日、参加したのは57名。以前、会員は地元の人だけだった。最近は市原、東金、千葉など近隣からの参加も認めるようになったが、原則として会員募集はしていない。
定年退職後、一宮に住むようになったメンバーは「地曳き網をひくのが楽しくてね。最初の年は毎回参加していました。捕れた魚はその日参加した人で分けるのですが、潮の関係でほんの数匹の時もあれば、直径60cmくらいの樽2杯という時もある。そうなりゃ、近所や友人に分けたり、大変ですよ」と話す。
地曳き網に入るのは主にアジ。その他にイシモチ、カマス、スズキなど。水温で魚の種類も違ってくる。
「夏場で水温が23度以上でアジ、それ以下だとイワシやサバだね。今回、エイが多く捕れたけど、尻尾にある剣(けん)を誤って踏んでしまうと小さなエイでも全身がしびれ、大きなものでは死亡するほど危険なので注意が必要だよ。食べると美味いけどね」とエイの剣を抜くメンバー。
この日は大漁で大きな樽約10杯の収獲。大物は80cmのスズキだった。
大きなブルーシートを広げ、捕れた魚を人数分に分け、名前の書かれた木札を無造作に置いていく。作業の違いで魚の種類や量は変わらない。全員の作業が終わってから、自分の木札がのっている魚を持って帰る。アジのほかにどんな魚が入っているかはお楽しみ。
会では町おこしの一環として観光地曳き網を行っている(有料)。
網を実際にひき、網から直接生きている魚を触るなど、子どもに限らず貴重な体験になるはず。捕れた魚をそこで調理して食べるのも可。
会社のレクリェーションや学校のPTA行事などで喜ばれている。 (大谷)