バリ島と日本を行き来していた木倶知のりこさんの元に週に1度、3人の仲間が集まる。目的はバリ島の影絵芝居の伴奏に使われる鍵盤楽器『グンデル』(正式にはグンデル・ワヤン)の練習。グンデルは結婚式や成人式など人生の節目ごとに演奏される、バリ人には愛着の深い楽器だ。
木倶知さんが初めてバリを訪れたのは、今から約15年前。家族と友人との観光旅行だったが、当時、小学生だった息子2人がバリ舞踊に興味を持ち、帰国後、兄弟だけで1年間の芸術留学をする。その間、何度かバリを木倶知さんは訪れ、自身も舞踊や音楽に興味を持ち、バリ島中部に住むイ・ワヤン・ランティル氏に師事した。氏の父親でバリでも屈指の演奏家と知られていた故イ・マデ・グリンダム氏の愛用していたグンデル4台を特別に譲り受け、バリに置いてあったが、それを友人と二人で日本に持ち帰ったのをきっかけにグンデルの演奏が実現した。
「4年前、毎週のように遊びに来ていた友人らが、グンデルをたたき始め、その心地よい波長に共鳴した人たちが自然発生的にグループになっていたという感じです」と木倶知さん。
グループの名前は『クスモ・サリ』。バリ語で皆に親しまれるという意味がある。
グンデルは主旋律とその間に入る音を担当するグンデル2台、その1オクターブ違いの2台の4台でワンセット。
「緻密さと音の幅を出し、まるで一人の人が音を出しているようにたたくのがバリの音楽の技法です。こうすると自分の出している音のなん倍かの音、しかも互いの音が共鳴し合うのか、不思議な音も聞こえてきます。また楽譜も指揮者もなく、アイコンタクトや呼吸、気配を感じながら演奏するので、一緒に演奏している人と一つになる感じが快感です」
夢中で演奏していると無我の境地になり、深いリラクゼーションが得られたり、普段は使わない脳が音の波長の中で動いていると感じる人もいるという。
「新しい発見がいつもあります。そしてこの活動が生活の中心ではないのに、いつもここに帰ってくるという感じになるのが不思議です」と仲間のひとり。
活動は毎週1回。グンデルの他にバリ島の芸能でも有名な『ケチャ』(男声アンサンブル)に使われるリズムをアレンジし、オリジナルの竹製のパーカッションで練習も行なう。また、お茶の合い間にはバリの公用語であるインドネシア語の勉強も。ちなみに木倶知さんのすでに成人した息子は、インドネシア語とバリ語が堪能で、バリ人が同国人と間違うほどとか。
毎年、仲間が共同で管理する田んぼの『田植え祭り』、『収獲祭』には必ずグンデルの演奏をする。また地元の小学校、神社の奉納、展覧会のオープニングなど、依頼があり、それが「心地よく楽しそう」であれば演奏を受けることにしている。
「自分がわずかでも習得したものを、人に伝えていきたいと思うようになりました。難しい楽器だからこそ大袈裟に構えるのではなく、楽しみながら。できれば年をとって、おばあさんになってもいつまでも皆で楽しくグンデルで遊べたらいなと思っています」
今後はオリジナルの曲を作ること、また「新人を育てたい」と、初級者コースも考えている。 (大谷) |