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新緑のトンネルを抜けて着いたのは、市原市万田野(まんだの)にある田中牧場。総面積3万坪。その広さに、距離感や大きさが分からなくなる。青く茂る牧草の上を風が渡る。男たちは、向こうの林の木々を揺らす風で、フライトのチャンスを見極める。間口36メートルもある格納庫には、ヘリコプター1機と翼長約10メートル、機体重量180キログラムの超軽量動力機ウルトラライトプレイン(ULP)5機が、フライトの順番を待っていた。
牧場主の田中正雄さん(56)が、牧草地の中に250メートルの滑走路を引いたのは10年前。「ライト兄弟のように自分も大空を飛びたい」という思いは、高校時代からの夢だった。「土地は自分の敷地だけれど、空まで独り占めするわけにはいかない」と、皆が遊べる場に牧場を開放した。「飛び立つとすぐ高滝湖が自分の庭の池のように見えて来るんです。天気の良い日は、東京湾と太平洋の両方が望めるんですよ。ここは房総丘陵のど真ん中。平坦な所とは違って、山の背や谷の気流は一定していません。その分操縦技術が磨かれると、わざわざ県外から通うメンバーもいます」と、田中さん。牧場を基点に半径3キロメートルが、市原スカイスポーツクラブで申請している飛行エリア。エンジントラブルがあってもグライダー飛行で、滑走路まで帰って来られる距離という。半径9キロメートルまで広げることも可能だが、安全面から思案中だという。
現在、メンバーは10人。サラリーマン、石材屋、定年組、自動車整備士、不動産屋と、職業は様々。半数が発足当初からの仲間だ。講習中の生徒も4人いる。また、クラブに専属インストラクターがいることも強みだ。15〜20時間の実技講習を受ければ、ライセンスが取得できるとあって、ここで初めて空を体験した人も多い。1回の飛行は約30分。衝突回避のため、飛行は1機が約束となっている。到着順が飛行順となるルールがあるため、休日には、皆朝早くから集まる。「天気が良くても毎秒5メートル以上の風があると、ULPは飛べません。朝から夕方まで待つこともあります。3回に1回飛べたら良いほうでしょう。でも、風待ちで飛ばない時間も楽しんでます」という。
命と隣り合わせの飛行は安全が第一。待ち時間には機体の整備を怠らないが、牧場の向こうには麦畑とジャガイモ畑が広がっていた。プレハブ横には、スイカも植えてある。「牛糞がいっぱい入ってるから、土は肥えてるよ」と、メンバーは季節ごとの菜園を楽しむ。この春植えたミカンの木で、ミカン狩りができる日も楽しみという。立派な格納庫も、皆の手作りと聞いておどろいた。8年前、大風で機体が損傷したため、材料から調達して建設した。超軽量とはいえ、飛べる場所は限られている。河川敷、田園地帯、飛ぶフィールドはあっても、格納庫を持っているクラブは少ない。そのため、フライトの度に翼を折り畳んで機体を搬送しなければならない。「格納庫のあるここでは、その必要がないのでありがたい」とメンバーはいう。
新緑があざやかな5月は風のある季節。1年の中で最も安定するのは、夏から秋にかけて。下界は暑い日でも、眼下に房総の山並みが広がる上空300メートルは別世界だという。1年前からは、ラジコンの愛好家たちもここに集まって来るようになった。ウルトラライトプレインが飛べない風のある時でも、ラジコンは飛ばせる。情報交換しながら、互いに楽しんでいる。たまに、モーターパラグライダーの仲間たちも姿を見せる。休日、万田野の田中牧場には、フライトドリームを求めて仲間たちが集って来る。 (国) |