NO.5

5・『夷隅川のモクズガニ漁』の巻
 大多喜町

 10月中旬のある日、大多喜町堀之内に住む高梨喜一郎さん(60)のお宅にうかがった。夷隅川でのモクズガニ漁に同行取材させてもらうためである。
 軽トラに乗り込み出発。細い畦道やガタゴト道を走って着いた先は、総元に近い夷隅川の中流域。竹藪を抜け岸辺に出て泊めてある木製ボートに乗る。オール代わりの竹竿に改良を加えた?もので漕ぎ進む。2日前に雨が降ったので川の水は濁っているが、ふだんはもっと澄んでいるそうだ。
 高梨さんは「ちゃっけぇ(小さい)頃から親父に連れられて魚やら獲ってたよ」と喋りながら、両岸の数カ所に仕掛けてあるカニかごを引き上げてゆく。カニが掛かっていてもいなくても、かごに入れる餌(ボラの切り身)は新しいものに取り替える。
 地元の人が「モクゾ」と呼ぶモクズガニ(藻屑蟹)は、全国の川に生息する淡水性のカニで、ハサミに長くて柔らかい毛が密生しているのが特徴。この毛が藻屑のように見えるのでモクズガニと名付けられたとか。ハサミだけでなく足にも毛が生えているものもいる。ハサミの毛を触ってみると濡れているうちは、しっとりしていて、乾くとフサフサしている!本当に動物の毛みたいで少々不気味だ。
 甲羅をひっくり返して、お腹の、いわゆる『ふんどし』と呼ぶ部分が小さいのがオスで、大きいのがメス。
 川の水深は深い所で2メートル位。資料によると建設省(現 国土交通省)の『河川水辺の国勢調査』で、夷隅川は長良川に次いで生息魚種数が全国2位にランクされている。調査では70種余が確認できた実に豊かな川。「この川にいる魚?ウナギ、コイ、フナ、ナマズ、ライギョ、タナゴ、ウグイ、オイカワ、ドジョウ…川魚ならほとんどいるよ。昔に比べたら数は少なくなったけどね」
 他に漁をする人の姿は見えないが、今でも自家用に、販売用にと川魚の漁をする人はいるそうだ。
「これぐらいあればいいか」カニを10ばかり入れた容器を抱え、ボートを下りる高梨さん。
 家に戻ると早速カニを水洗い。今回は、カニの味噌汁『カニごし』、『カニ味噌焼き』『カニ飯』を作る。カニごしは、カニをさばいて甲羅を除き、包丁の背で叩き、すり鉢に入れゴリゴリと細かくすりつぶす。そこに味噌を加える。「白味噌の方が出来上がりがきれいだね」とのこと。そして鍋に目の細かいざるを差し入れ味噌とカニを細かくしたものを入れ、水を加えながら殻などを漉していく。火加減は、はじめ強火、あとはとろ火で。その後、長ネギを入れ、濁っている汁が澄んでカニが雲のように固まってきたら出来上がり。味噌汁を火にかけている間に、カニごしで使わなかった甲羅と味噌でカニ味噌焼きを作る。カニ味噌と白味噌、大葉と青唐辛子のみじん切り、砂糖と酒少々を混ぜ合わせ、甲羅に詰めて大葉でふたをする。甲羅から焼いて、甲羅を返して焼き、再び甲羅側を焼く。ずっととろ火で。カニ飯は、鍋に米と水、醤油を入れ混ぜたあと、カニとカニ味噌をのせ20分ほどおく。そして、火にかけ中火で沸騰させてから弱火で5分ほど炊いて10分位蒸らす。
 カニごしを飲む。旨い!あの獰猛で不気味な毛だらけの見てくれからは想像もつかない上品な味わい。カニ味噌焼きの味噌をのせたカニ飯も滋味深く、ご飯が進むというか、いや、熱燗の肴にぴったりだと言うと、高梨さん「酒の集まりの時に持っていくと皆喜ぶんだ」と嬉しそうに答える。
 この他、モクズガニは、甘辛く煮たり、ゆでたり、唐揚げにもするという。
 ちなみに、高梨さんは10年以上前から栄町にある『県立房総のむら』で、夏はアユ、秋はモクズガニを使った郷土料理の講師を務めている。(内田)




 



(C)City Life