花の数が少なくなる冬に人気のシクラメン。年々、品種改良も進み、色や形のバリエーションも増えた。シクラメンといえば、バラやユリのように香る花というイメージがなかっただけに、かつて小椋佳が作詞作曲し、歌手の布施明が歌い大ヒットした『シクラメンのかほり』を聞いた時、「シクラメンに香りなんてあったっけ?」と思ったものだ。が、今では香りの高いシクラメンも登場していると聞いた。
そこで今回は山武市(旧成東町)でシクラメン栽培30年、『農林水産大臣賞』『全日本シクラメン品評会審査員特別奨励賞』等を受賞している田邊耕一さん(52)の温室を訪ねた。田邊さんは「お客さんに喜ばれ感動してもらえるシクラメンを」と、独自に品種改良を重ね、様々な変わりシクラメンを開発している。農林省に新品種と認定された『テレサ』や、現在も新品種として申請中のものも幾つかある。その中のひとつが、香りシクラメンとして人気の『アローマ』。この名は、田邊さんと親交のある大橋巨泉さんが、その香りの高さに感動し名付けたものだ。「実は『シクラメンのかほり』という曲が流行った当時にも、ミニシクラメンの系統には微かな香りはあったのです。でも、品種改良が進み花の形が優先されたために、香りがなくなってしまった。私は独自の花を生み出したくて、交配をしている時に、たまたま香りの強い花を出すことができたのです。大輪で香りの高いシクラメンは皆さんにとても喜ばれました。箱を開けた瞬間、『アローマ』の香りがして、部屋に置けば部屋中に香る。私も自宅の玄関に置いているが、ドアを開けた時にパーッと香ります」と田邊さんは話す。
新種を開発するために花の交配を続けてきた田邊さん。「見えない世界で、花が咲くまで分からないというロマンチックだけどリスクもある。園芸人としては、品種改良をしていて、これは!という花ができると、新しい恋人に出会ったようなトキメキがあります。でも、経営者の立場となると別ですが。女房には苦労をかけているから、一緒に花を見にヨーロッパへ行きたいな」と茶目っ気たっぷりに笑う。そして新品種として認可されること以上に、お客さんに「珍しい花だね!」と喜んでもらえることが何よりも嬉しいと話す。
米とネギなどを作る農家に生まれた田邊さんは地元の農業高校卒業後、横浜の農家に2年間研修に行き、温室栽培の花について学び、花の栽培をやろうと決意する。そして先進地であるオランダで1年間研修を。 帰国後、ガラス温室2棟からスタートしたが、現在は施設7棟約3300?で、約20種類8千鉢のシクラメンを栽培している。田邊さんのシクラメン栽培暦は、11月に種を蒔き、3月に9センチのポットに仮移植する。7月に15センチポットに移し替え、9月に仕上げの18センチの鉢に植える。「種を蒔いてから花が咲くまで約1年と長きに渡る。まさに子育てと同じ。手を抜くと変な風に育ってしまうし、かといって肥料をたくさんやり暖かくしてあげればいいかというと、軟弱になって萎れやすくなる。だから、毎日きちんと見て手をかけてあげないといけない」という。
「私は九十九里生まれなので、やはり『つくも』にこだわり、シクラメンにも『つくもの天使』など地元の地名にちなんだ名前をつけた。地域の名前をPRし、特産品にしたい。南房総だけが千葉県の花の産地なのではなく、九十九里にも花の産地があることをアピールできたら。1年通して皆さんに、お花を供給したい」そんな思いから、今、春に向けて、オキザレス、ガーベラ、キンギョソウなど20前後の花も栽培している。7、8月を除き、常に何かしら花を作っている。
最後に、田邊さんからシクラメンの上手な育て方をアドバイスして頂いた。
「花が咲き終わったら、花がらを取り除き、ひと回り大きな鉢に移し替えて、毎月1回薄い液肥を与えて。水のやり過ぎは根腐れするから一週間に一度は土を乾かしてあげる。そして日光をたっぷり当てること。但し、夏は日陰に置いて、秋になったら直射日光の当たる所に置くといい。とにかく1日でも長く花を楽しみたいなら、リビングに置きっぱなしにせず、外に出すように。でないと、日照不足になったり暖房で乾燥して花が小さくなり色も褪せてしまう。もし何か育て方で分からないことがあれば、電話でもメールでもお答えしますよ」とのこと。
田邊さんの栽培したシクラメンの大半は東京の花市場に出荷されるが、「実際に温室内のシクラメンを見にきていただいてもいい」という現地での直売やホームページでの注文も受けているので、希望の方は問い合わせを。(内田)