こんなシンビジウムがあるなんて!
温室内に足を踏み入れ驚いた。スタンダードな立ち姿のものもあれば、アーチ型や垂れ下がるタイプもある。贈答用やインテリアにもピッタリのゴージャスな大きさのものから、ミニや小鉢タイプのテーブルサイズまで揃っている。色や仕立てのバリエーションの豊富さもさることながら、一株の花の多さ、ボリューム感にシンビジウムに賭ける野口哲由さん(42)の情熱が伝わってくる。
野口さんがシンビジウム栽培に取り組もうと考えたのは10年前。「農業を始めるには体力的にも30代で、と勤め人生活にピリオドを打って」実家はワケギの生産農家だったが、シンビジウム栽培を選んだ。父親が趣味で育てていたので、花の美しさに惹かれていたこともあるが、「競合相手が周辺にいない」のが大きな理由だった。何故なら、シンビジウムはお歳暮時期の贈答用鉢花のイメージが強く、冬に出荷させるためには、その頃花が咲くように、夏は高冷地で管理して開花調節をしなくてはならないから。「千葉ではシンビを移動させるのが大変なので、その必要のないカトレアや胡蝶蘭を栽培する人が多いんですよ。僕も、『よくやるね。やめた方がいいんじゃない』と言われました」。野口さんは7月頃から10月初旬まで、借りている山梨の標高千メートルを超える山の施設にトラックで全株運び管理し、これをまた千葉に戻す作業を行っている。
野口さんのモットーは、「人と同じことをやっていては成功できない。皆が面倒くさい、手がかかるといって、やりたがらないことをやらなくては」。だから、他のシンビジウムとの差別化を図るためミニサイズも手掛けたし、「皆、忙しい時期に宅配便を頼まれると断るが、僕は敢えて引き受ける。贈答用の梱包・発送作業には細心の注意を払っています」ともいう。
約千坪の温室で1万鉢、20種類近くのシンビジウムを栽培している。これまで東京の花市場に出荷してきたが、今年から直売も始めた。それは、「どうしても中間業者を通すと高価な値段設定になってしまう。もっと気軽にシンビをお買い求めいただきたいから」。品評会での上位入賞経験や、都内の一流花屋で取り引きされるようになり自信がついたこともあるだろう。
うまく育ててあげれば毎年花を咲かせるシンビジウム。記念樹ならぬ、記念花にふさわしい品のある花だ。
ちなみに『シンビ屋 中峠(なかぴょう)』の名は、「この辺の字、地名であり、うちの屋号でもあります」とのこと。
野口さんは、もっとシンビジウムの魅力を知ってほしいと、「管理の仕方や春の植え替えや株分けなどの講習会を企画して、シンビは世話が難しい花じゃなくて、長く楽しめる花なんだということを理解してもらえるようにしたい」と熱く語る。直売期間は3月頃までを予定しているが、在庫がなくなり次第終了。(内田)
毎年、シンビジウムの花を咲かせるコツは、「春先まで特に何もしなくてもいい。水やりは、夏は毎日であとは3日に1回ぐらい。3月から4月にかけて花が終わったら、肥料を与え、根元から葉の芽が出てくるので、2つか3つ残して他は全部取ってしまうこと。これを完全に大きく育てれば、その両脇から花が上がってきます。花を咲かせられない人は、芽を残してしまうため、中途半端にしか育たない。そして、夏は直射日光を当てると葉が焼けて黒くなり枯れてしまうので木陰など遮光してあげて。冬の霜も葉をダメにするのでレースのカーテン越しに置いてあげるといいですね」ということだ。