「うちはレストランで使う食材を扱う八百屋さんみたいなもの」と話す浅野悦男さんは、畑で摘んだイタリアンパセリを差し出す。
花をつける茎が伸びた、いわゆる「とうだち」したイタリアンパセリだ。「食べてごらん」、悪戯っぽく笑う浅野さん。とうだちした野菜は繊維質が多くなり味が落ちるのではと思ったが、意外にも美味しい。通常のとうだちする前に出荷される葉や茎とは、また違った風味。「みんな、とうだちしたら捨てる。でも、旨いでしょ。これまで捨てられていた野菜の花も実も、俺からみれば商品になる。買ってくれるシェフは、同じ食材なのに違う味で料理のレパートリーが増え、お客さんは初めて口にする味と喜んでくれる」と淡々と語る。
浅野さんは高校を中退して17歳で家業である農業を始めた当初から、「これからの農家は、人と同じものを作っていたらダメ。それには違うことをしなくちゃ。生産者は消費者のスタンスでも、考えないと行き詰まる」そんな思いで、チャレンジ精神を持ち栽培方法に試行錯誤しながら、八街特産のニンジンやダイコン、バレイショなどの野菜を作り続けてきた。その甲斐あって市場では評価されたが、将来的な野菜の価格低迷に不安を抱き、何とかできないかと考えあぐねていた。
そして7年前のイタリアンブーム再来期、イタリア料理では不可欠なルッコラの種を手に入れ栽培した。これを浅野さんとパートナーを組んだ営業担当の男性が、都内の有名なイタリアンの店に何軒か持ち込んだところ、即完売。更に「他にも作っている野菜があるならそれも欲しい」と従来から作ってきた野菜の注文も受けた。以来、浅野さんは情報収集に努め、「これはいけそうだ!と判断した」時代を先取りする西洋野菜の栽培に取り組んできた。
同時に、ニンジンやレタスにしても生、焼く、煮込み、スープ用にと料理に合ったものを6種類位作る。そして現在、全国の専門料理店から注文が相次ぎ、彼の農場には有名シェフが訪れ、取引先の延べ数は200を越える。マスコミにも頻繁に取り上げられるようになった。
「本来、イタリアンに使う野菜はこういうものだとシェフ達が主張し始めたとき、日本のマーケットに彼らが欲しいという野菜はなかった。人が欲しがるものを作れば売れる。だから作った。他に作っている人がいないから、栽培法などわからないし、土地に合うのかも分からない。もう野菜とのデスマッチ。真剣勝負。ちっちゃな種のくせに『オヤジ、俺のこと分かるか?やれるもんなら、やってみな』って挑戦状突き付けてくる(笑)。リスクなんて恐れないよ。でなきゃ人と違うことなどできやしない。人がやってないことをやる方が夢が持てるし、叶った時の喜びも大きい。結果が出たら、また新たなチャレンジ。その繰り返し」
国内では見かけない野菜の種を手に入れ畑に蒔くと、最初の1年は失敗覚悟。「収穫しないで、その作物の一生をみる。どんなヤツか知るために」。あとは他の野菜と同様。彼の持論は「みんな野菜を野菜と意識しすぎ。しょせん草なの。人間が勝手に食用にするのを野菜と区別しただけ。草は野菜よりミネラル豊富。で、今みんな何を欲しがってるかというとミネラル豊かな食材。だから俺は野菜を草として扱い余計なことはしない。必要と思われることだけをする」
浅野さんを訪ねてくる人は多い。新規開店するシェフが相談にのってもらおうと来る。それは、メニューについてのアドバイスを求める場合もあるが、多くは経営に絡む内容であり、そのベースとなるのは人との接し方についてだ。「農家が勘違いしてるのは、野菜だけが商品と考えてること。自らが商品なの。俺の場合、このオヤジと関われば何かプラスになるんじゃないかと思わせること。それが、仕事のヒントになる話だったり。それには、常にあらゆる情報をキャッチして選別して考える、日々の努力が大事」農家は野菜を作っていればいいだけではないと力説する。画期的と評判を呼び、注目を浴びたテストキッチンでは採れた野菜を調理し味見できる。これはかねてより、このような場を設けたいと浅野さんが望んでいるのを知っていたイタリア料理店のシェフが、店を改装するのでと食器や厨房器具、テーブルなど全て譲ってくれたもの。納屋を利用して開設した。
現在、大阪からイタリアンのシェフ、長崎から農業従事者、そして就農希望の浅野さんの甥ら3人が研修に来ている。九州から栄養士の資格を持ち食材について学びたいと21歳の女性が5カ月いたことも。「息子は別の仕事をしているが、構わない。誰か自分の意志を継いでやってくれたらいいと思ってる。少なからず俺の所に4人来たから4つの種を蒔いたってこと。TVや雑誌に出て俺のこと知ってもらうのも種蒔きでしょ」
残念ながら、浅野さん一人で野菜を作っているので量に限りあるため、一般対象の販売はしていない。
が、近々、浅野さんの野菜を使うレストランで食事をし、その野菜を欲しいという人達にテイクアウトできるようにしたいという。そして、ゆくゆくはニューヨークやパリに野菜を送る国際宅配をやりたいと夢はまだまだ広がる。
本日午前11時半〜NHK総合テレビ『月刊やさい通信』に浅野さんが出演。興味のある方はご覧になっては。(内田)