毎年夏、市原市市民会館で開催される児童養護施設平和園の『手づくりコンサート』。園内の音楽クラブの子どもたちが出演する舞台で昭和59年からスタートし、入場は無料。オリジナルの音楽や演出、衣装など、毎年スタッフが様々に工夫をする。「子どもたちが自分で誇れるものを持ち、喜びになるように」という思いからコンサートを発案、続けている星一男さん(58)鏡子さん(56)園長夫妻は、「子どもたちにとって園は家庭、スタッフは家族」という姿勢で、この30年を支えあってきた。
家庭の様々な事情で養育が困難となった18才までの子どもを預かり育てる児童養護施設。県内16カ所のうち平和園はもっとも古く、昭和16年に一男さんの父である初代園長によって設立された。2才からの子どもたち30名と共に生活し、スタッフは17名。親代わりとなる星さん夫妻は、「より家庭的で家族的な子どもたちの居場所づくりが私たちの役目。子どもたちは入園する施設を選べません。私たちは彼らが縁あって平和園に来たと考え、入園したときから彼らの幸せがスタートできるよう、子どもたちの心のケアをしていくことが必要です。どれだけ愛情ある心豊かな生活にできるか、子どもたちを大切にできるか、毎日が真剣勝負です」と話す。
二人は職場結婚。一男さんが父親のもとで働いていた20代前半、秋田から福祉の仕事に携わりたいと鏡子さんが上京してきた。標準語がうまく話せない鏡子さんに、早く言葉を覚えて馴染んでもらおうと努めて一緒に仕事をし、鏡子さんも熱心に子どもたちの面倒を見た。やがて高齢だった父親が倒れて半身不随になり、「早く結婚して父を安心させたい」と思った一男さんは、父親が気に入っていた鏡子さんに「私が結婚して欲しいと言ったら、どう答える?」と聞いてみた。鏡子さんは断らなかった。「私には、子どもたちを私の手で幸せにしたい、そのために一生福祉の仕事を続けたいという夢がありました。そこへ主人のプロポーズ。義父も主人も好きだったし、結婚の条件がすべてそろったということでしょうか」
子どもたちを育てていく上で、二人の関係は重要だ。鏡子さんは園長である一男さんを我が家の柱として尊敬し、子どもたちに悩みを打ち明けられると「お父さんに相談してみよう」と答える。一男さんは鏡子さんの子どもたちへの接し方を尊重し、何かあれば二人の時にアドバイスし、決して子どもたちの前で言い合いをしない。園の対外的なことは鏡子さんに委ねている一男さんは、子どもたちとのコミュニケーションを密にして、それぞれの個性を見出す。毎日の夕食は、大切な団らんの時間として必ず子どもたちと一緒。普段からスポーツや音楽なども指導し、遊び、会話も多い。「主人は子どもたちの顔を一目見るだけで、体調の変化や悩み事、子どもたちの言葉にしないSOSを一早くキャッチします。だから子どもたちもお父さんが一番。自分のことを分かってくれる、という信頼感、安心感を持っています」「子どもは愛されているかどうかに敏感で、大人の価値観や生活姿勢を鏡のように写し取ります。充分に愛された子は自然に思いやりが育ち、周囲の大人が悪ければ、感謝や優しさのない子どもになる。だから私たちが悪い場合は子どもたちに謝るし、子どもたちが頑張ったら『ありがとう、嬉しいよ』と口にする。学校などに迷惑をかけた子どもがいても、それを否定しない。成長過程と捉え、子どもの思いを受け止めて一緒に考え悩み解決します。それが子どもたちのためだと思うからです」
誕生日には、手づくりケーキとプレゼントとその子のための夕食メニュー、季節のイベント、運動会のお弁当なども、子どもたちの要望を聞き、スタッフみんなで用意する。星さんの息子さん夫妻も現在、スタッフとして実践を積んでいる。「家族が健康で笑い合える日常が一番大切。日々の小さな幸せが、子どもたちの人生の幸福につながるよう、子どもたちに必要とされている限りは頑張りたい」と星さん夫妻は話す。 (米澤)