3年前、前田貞夫さん(66)と幸子さん(67)は結婚した。熟年離婚が流行り言葉のように取りざたされる中、老後を豊かに幸せに暮らすためには心の通うパートナーを持つことが大切と、互いに話し合って決めた。相手との家族の付きあい方、財産や相続の問題、健康のことなど、それぞれに歩んで来た人生があるシニア婚には、若い時とは違う悩みもある。JR外房線誉田駅に近い住宅街に、前田さん宅を訪ねた。
公営団地の1階、夫妻揃って笑顔で出迎えてくれた。2人の出会いは数年前にさかのぼる。52歳の時に離婚した貞夫さんは、前妻に自宅を渡し、アパートに独り暮らしていた。「離婚と同時に心機一転をはかり32年間勤めた会社を早期退職して転職しました。自分の責任で離婚に至ったこともあり反省の日々でしたが、待つ人のいない暗い部屋に帰る淋しさは辛いものがありました。次第に外食が多くなり、朝帰りもしばしばという時に、知人の紹介で近所に住む幸子と出会いました」と、貞夫さんは話す。
幸子さんは、33歳の時に夫と死別した。当時2人の娘は小学生と中学生だった。幸子さんは仕事を掛け持ちするなど、苦労を重ねて子どもを育てあげた。貞夫さんと出会った時、娘2人はすでに結婚して独立。幸子さんは新聞配達の仕事をしながら、次女の家族と共に暮らしていた。「私がこの人の家に夕飯をつくりに通って、2人で食卓を囲むという形でお付きあいが始まりました。食にはうるさい人なので、最初は好みが分からず不安でした」と幸子さんは笑う。食生活に象徴されるように、2人で暮らすからこそ生まれる文化も多い。今、幸子さんの手料理は貞夫さんにとって何よりの楽しみとなっていると同時に、2人の健康を維持するためにも欠かせない。
互いに2度目ということもあり、結婚については慎重だった。互いの意思を確認するため、3カ月間の同居婚を経て、両方の子ども家族を交えてよく話し合った。そして、平成15年1月20日、幸子さんの誕生日に入籍。「今は、互いの子どもたちが孫を連れて、わが家に遊びに来てくれるのが何より嬉しい」という。部屋には、娘たちから母の日に贈られたという胡蝶蘭が飾ってあった。後から分かったことだが、互いの長女同士は同窓生だった。貞夫さんは「幸子は私とケンカすると、娘の所ではなく近くに住む私の姉の所に行くんです(笑)。92歳になる幸子の母親も健在なので、一緒に訪ねると喜んでくれます。本当にうれしいですね」。周囲に祝福され、認められてこそ夫婦だと実感できると、2人は話す。
貞夫さんは、幸子さんと結婚するにあたって、これまでの自分のこと、財産のこと、これからの経済的なこと、全てを幸子さんに隠さず話したという。「私のとりえは、健康と持ち前の明るさ。財産はないけれど、2人が暮らしていくのに経済的には困らないと伝え、幸子には仕事を辞めて家事に専念してもらうように頼みました。私自身、待ってくれている人、家族がいると思うと、仕事に張りが出てきました」と、定年退職した今も、貞夫さんは週に数日現役で働く。
また、2人には大事にしている活動と仲間がある。離婚直後、貞夫さんが新たなパートナーを求めて入会した『NPO法人生き活きふれあいクラブ』のOBで組織する『絆の会』だ。現在、60〜70歳代のシニアカップルを中心に37組が参加する。NPO代表の伊藤むつ子さんは「今や百歳時代。会話のない生活は文化もなく孤独です。心の通うパートナーを持つことは生きがいです」と語る。25年以上に渡り、パートナーのいない中高年に伴侶を探す場を提供する同クラブでは、すでに750組以上のシニアカップルが誕生している。
昨年度、貞夫さんは『絆の会』の会長を務めた。最初、会行事への出席を遠慮していた幸子さんだったが「同じ環境にあって、女同士でしか分からない話もできますから、今は楽しく参加させてもらっています」と、懇親会や旅行に同伴して貞夫さんをサポートする。「私たち、今とても幸せです」と、夫妻は写真撮影にも笑顔で応えてくれた。(国安)