| 「利用者に不安を抱かせないよう、ブレーキのかけ方ひとつから細心の注意を払って運転しています」と話すのは内山 正さん(53)。車椅子の人をそのまま運ぶことができるバリアフリーカーや、介護が必要な人のためのケアタクシーを運転している。ケアタクシーの運転手『ケアドライバー』は、主に要介護認定を受けた身障者やお年寄りが病院に通院するのを手伝う。車の乗降や病院内へ運んだりすること、血圧・体温の測定などの身体介護も行う。
東金市では今年1月にケアタクシー事業をスタートさせた。事業を行うタクシー会社に対し、訪問介護員2級の資格者が3人以上いることを義務づけ、市内3社のタクシー会社に事業を委託した。
内山さんは勤務するタクシー会社が市からの要請を受けたことをきっかけに、資格取得を決意した。約3カ月、計130時間の講習と実技実習を受講し、日勤と夜勤をこなしながら資格を取った。合格したときには「これで少しでも恩返しができる」と思った。これほどまでに、ケアドライバーにこだわるにはわけがあった。
10年前に家族が不慮の事故に遭い、亡くなるまでの5年間看病し続けた経験をもつ。半身不随で寝たきりの状態で、明日が見えない日々の連続。回復の兆しが現れない苛立ちに看病疲れが重なり、精神不安に陥ったという。そんなとき力強く支え続けてくれたのは、看護師や介護ヘルパーだった。
多くの人からの励ましでどうにか立ち直り、自分から進んで介護も行った。「介護経験は全くなかったのですが、看護師さんに教えてもらいながら何とかこなしました。手足も動かない状態でしたので、着替えやおむつ交換、入浴介助などできることは全てやりました。このときに受けた温かい気持ちは今の自分の大きな支えになっています」
ケアドライバーは、通常のタクシー業務をこなしつつも、ケアタクシーの要請にいつでも対応できるよう体制を整えている。休日を返上して現場に向かうこともある。実際に、救急車を呼ぶと近所の迷惑になる、顔見知りのドライバーなら自分のことを安心して任せられるという理由から、夜間に依頼を受けたことがあった。「内山さんの顔を見たら、安心した」とお年寄りに言われ、何よりも自分を頼りにしてくれたことが嬉しかったという。
介護技術は経験でカバーできるが、相手を思いやる心がなければ成り立たない仕事だと内山さんは思っている。「病院の通院だけでなく、院内介助といって、検査に付き添うこともありますから、時間で割り切れる仕事ではありません。利用される方に満足感や安心感を持っていただくための努力は惜しみません」
現在、社内には内山さんを含めて4人のケアドライバーの他、福祉全般のアドバイザーとして介護福祉士の吉澤 利子さんが常駐している。ドライバーに対する介護についての適切な助言、車の手配や利用者の情報収集など、ケアタクシー事業のサービス提供責任者として全ての業務をこなす。重度の身障者やお年寄りが利用する場合は、ドライバーと共に直接介護にあたる。
また、月に1度の定例ミーティングは、ドライバー同士の情報交換の他、利用する身障者やお年寄りの身体の具合や介助の方法、家の構造や段差の位置はもちろん、その人の性格や趣味などの情報も共有する。ドライバー歴27年という経験から、利用者が車に乗った瞬間に性格がほぼ見抜けると内山さんはいう。
通院のために月平均2、3回ケアタクシーを利用する常連もいる。利用の機会が増えるたびに利用者とドライバーとの心の距離が縮まる。勤務時間外でも、道ですれ違った利用者から声をかけられることがよくある。「誰に対してもいつも笑顔で接する内山さんはとても頼りになる。差し伸べてくれる手、言葉かけひとつから思いやりを感じる」とあるお年寄りは話す。
「ケアドライバーになったおかげで、生きる張り合いができました。利用者の方からの『ありがとう』の言葉が何にもまさる元気の素です。これからも身体が続く限り、誇りをもってこの仕事を続けたい。身障者やお年寄りなどが安心して暮らせるようお手伝いができれば」と抱負を語る。誠実で、謙虚な内山さんの人柄が伺える一言だ。
地域をつなぐ架け橋としてケアタクシーのニーズは、今後ますます広がっていくだろう。思いやりある地域社会を共に模索してきたいものだ。 (本城) |