| 自閉症をひきこもりや鬱病等の心の病気と解釈している人は少なくない。自閉症とは、親の育て方や家庭環境が原因ではなく、生まれつきの脳の機能障害だ。
自閉症の特徴は人によって異なるが、言葉の遅れ・人との関わり方が分からない・知的機能が偏って発達する・興味が限られる等。
現在では先天的な脳障害であることが知られてきたが、それでもまだひと昔前の自閉症に対する間違った見解「母親の育て方が悪かったから」で、母親が責められることがあるという。
自閉症の子どもを持つ家族にとって最大の難関は、周りの人達が自閉症という障害を理解してくれないこと。そんな自閉症に対する正しい理解を社会に求め、仕事の傍ら精力的に学び、活動している大屋滋さんには、2人の子どもがいる。11歳の長男、友貴君は自閉症と知的障害を持ち、8歳の長女、いずみちゃんは知的障害を持つ。脳神経外科医師の大屋滋さんは、(社)日本自閉症協会千葉支部の支部長でもある。
旭市にある大屋さんの自宅のリビングの壁には数枚の絵カードが留めてあり、『手を洗う』『連絡帳を出す』『おやつ』とある。友貴君は順番にカードを見て行動する。自閉症は、言葉より目で見る指示の方が理解しやすいからカードを使いスケジュールを示す。
「友貴は知的障害もあるので、2歳児位の知能。でも、自閉症は物事を視覚的に認知するのは得意なので、この特性を生かすのです」と滋さん。
母親の千鶴さんは「結婚して7年後にようやく生まれた友貴。幸せいっぱいで喜んだものの、すでにお誕生日を過ぎた頃には他の子どもとは違うことに気づきました。言葉も出てこないし、気に入ったことは1日中でもやり続ける。ほとんど人と関わろうとしない。1歳半の検診で自閉症の傾向があると言われ、3歳の時に自閉症と知的障害があると診断されました」と話す。
6歳頃までの友貴君との生活を振り返る。言葉をかけても無視する。手をつなぐのを嫌がり、手を振りほどき勝手に歩く。自分の物と他人の物の区別ができず、他の子どものオモチャを取り上げたり店に並ぶ商品を持っていこうとする。手づかみでご飯を食べる。パニックになると泣き叫ぶ。千鶴さんはどうしていいか分からず「爆発した」ことも。「私には言葉で言っても分からないということが理解できませんでした。たくさんの療育施設や病院、教室を訪ねました。でも、良い結果はでませんでした。友貴に振り回され、どう対応すればいいのか誰も教えてくれなかった。そんな日々が続いてもストレスに潰されなかったのは、夫が休みの日や空いている時間は友貴の面倒をみてくれ、私を友貴から解放してくれたから」と千鶴さんは話す。
友貴君との「バトル」に明け暮れるなか、2人目の子どもを妊娠した千鶴さん。不安はあったが、今度こそという期待もあった。が、やはり2歳を過ぎた頃に、いずみちゃんも知的障害と分かった。
滋さんと千鶴さんは、「もう、1人も2人も同じだと思ったけれど、同じじゃなかった。いずみとは普通の子どもと同じようにコミュニケーションがとれたから」と言い、千鶴さんは「いずみとは手をつなぎ散歩したり公園で遊んだりできた。そんな普通のことが、とても嬉しかった。だから、知的障害があっても私はいずみに癒されました。ただ、いずみは一人遊びができるからと、友貴にかかりっきりだったのが、かわいそうだったと思います」と言う。
滋さんと千鶴さんの10年間にわたる試行錯誤の結果、「これだ」と辿り着いたのがアメリカの自閉症の人達のための支援システム『ティーチプログラム』。
幼児期から成人に至るまで一貫して実施される総合的な療育プログラムだ。自閉症の人達をいかに尊重し、共に暮らしていくかというのがティーチの基本姿勢。数年前から注目していた滋さんも熱心に学び、現在は千葉県ティーチプログラム研究会の副代表でもある。
滋さんは「友貴は普通の人が一生かけて叱られる分は、もう僕達や先生方に叱られてきたと思う。本人にしてみれば何故怒られているのか、言葉が理解できないのだから困っただろう。つらかったとも思う。一般的には言葉がけをたくさんしようと言うが、自閉症は反対。こうした『常識』が自閉症に関しては通用しないどころか逆効果だという知識を持たなきゃ、いくらやっても報われずイヤになってしまう。ティーチを理解してからは、友貴がどのように困っているのか、どうしたら良いのかを考えられるようになりました」と話す。
更に、「自閉症支援の勉強の場を増やそうと、教師など専門職の人を対象にした千葉県ティーチプログラム研究会を発足しました。また、少しでも医師が自閉症児への理解を深めることができるようにと、全国の自閉症の子どもを持つ医師に呼びかけています」。その医師ネットワークの参加者は30人を越えた。
「僕が寝っ転がっていると、友貴といずみが2人して乗っかってくる。まるで親子ガメみたい。でも、僕はベタベタするの好きだから嬉しいんですけどね。これは我が家の努力の成果かな」と明るく話す滋さん。
「普通の子どもより遅いと思う」といういずみちゃんの反抗期と、友貴君の思春期。滋さんと千鶴さんは、きっと励まし合い、いたわり合い迎えることだろう。 (内田) |