| 木更津市真里谷にある児童養護施設『野の花の家』の子どもたちは、夏休みや冬休みなど、学校が長期の休みになると地域の家庭へホームステイに出かける。様々な事情を背負って野の花の家へ来る子は、家庭を知らないで育った子が多い。この子たちが父親、母親となった将来、より良い家庭が築けるようにと、園長の花崎みさをさんが地域に理解を求めたのが始まりだった。
市原市東国分寺の宮原美祢子さんは、これまでに11人の子どもを受け入れた。10年前、園で果物が足りないと聞いて野の花を訪ねたのがきっかけだった。当時双子の息子たちは社会人。自宅から通勤する次男と夫との3人暮らし。幸い夫も息子も、子どもは大好きだった。自身もフルタイムで働いていたが、短期間ならと、家族の了解を得て引き受けることにした。
「正直、最初は心配でした。でも、子どもの手を取ってみるとカチカチ。緊張しているのは自分たちだけでなく、相手も同じだったのです」と、初めてのホームステイを振り返る。宮原家へやって来たのは小1のS君と小5のM君。子どもたちには、それぞれ複雑な家庭環境があった。宮原さんは、子どもたちの話は聞くが、こちらからは何も聞かない事にしている。「今夜は何にしようか」と一緒に買い物に出かけ、いつものように皆で食卓を囲む。「M君は、大人でも胸が張り裂けそうになるくらいの重い事情を背負っていました。何かしてあげようとしても、拒否して走って逃げてしまうような子でした」。ある日、2人を連れて遊びに出かけた。帰り道、迷ってしまった宮原さんは文字が読めるM君に協力を求めた。「オバチャン、オバチャンと、その時のM君はとても協力的で、普通の子どもになっていました。私はとてもうれしかったのを覚えています。遅くなったので、その日は3人でお風呂に入りました」。いまM君は、高校生になった。野の花の家を訪れた宮原さんが声をかけると、いつもは見せない笑顔で返してくれるという。
ホームステイは、1度だけの子もいれば、何度も同じ子が来る場合もある。宮原さんは、すべての子に「ここは、これからはあなたのお家だからね」と伝える。子どもたちは「ただいま」と宮原家を訪ね「行って来ます」と野の花に帰って行くという。「自分たちを気にしてくれている人がいるということが、子どもたちの安心感になるならと思っています。子どももひとりの人間です。大人の思う形にはめようとすると、行き違いが生じます。女の子なら一緒にケーキを焼いたり、スカートを作ったり。男の子なら、息子と一緒に釣りに出かけたり。お互いの共通点を見つけるように心がけています」。多くの言葉より、同じ空間で共に過ごす時が大切だと宮原さんは話す。
現在の宮原家は、長男夫婦との4人暮らし。子どもたちがホームステイに来る時は、近くに住む次男夫婦も一緒に集まることが多い。友人宅や香取郡の実家へ連れて行くこともある。血縁があっても絆を結べない親子もいる中、たとえ短い間でも同じ屋根の下で暮らすことで絆を感じることもある。「私の結婚するときは、オジチャン、オバチャンも来てね」。今年の夏休みに来た高校生のK子ちゃんは、台所を手伝いながら言ってくれた。初めて来た中学生のときは心を閉ざしていた。会えない母親を思い出して大泣きしたこともあった。何度か来るうちに自分を出してくれるようになったという。
引き受ける側の負担の大きいホームステイだが「家が狭いから。習い事で忙しいから。自分のことを言い出せば切りがありません。今出来ることは出来るときにが、私のモットーです。出来ない理由を探すのではなく、出来る方法を探せば大抵の事はなんとかなります。私には、家族、友人、助けてくれる人がたくさんいます。それに、人は支え合いの中で生きているという事を、私は子どもたちに教わっていると思っています」。家庭は子どもたちにとって居心地の良い場所、そしてどんなことがあっても絶対的な愛で守ってあげる場所でなければならないと、宮原さんは思う。 (国) |