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1999.8.11今世紀最後の皆既日食黒海沿岸トルコにて写真はコロナ

星を愛し時間をいつくしむ白鳥忠俊さん(66歳)佐是在住 

「なぜ、そんなに星空にひかれるのですか」。
そうたずねると、白鳥忠俊さんは天井をみあげ、返事に困った様子で黙ってしまった。しばらくして「宇宙の向こうは未知。未知の世界への限りないあこがれ。
人間の力が及ばない自然界の現象は、あまりにも神秘的でネ。 なぜ? って、そういう質問さえ受けつけないんだよね」と答えた。 佐是の自宅に東京のいとこが荷物を疎開させてきたのは終戦間近のこと。
中に望遠鏡と星座早見表があった。彼らが遊びに来るたびに一緒に空を眺めた。 中学生になって、上野の国立科学博物館でおこなわれた「星を見る会」に参加。日本一大きい望遠鏡で、木星のしま模様や土星の輪をみた時、星に魂が奪われたかと思うほど感動した。高校生になると、東京大学と国立天文台でおこなわれる講習会にも出席。やがて日本天文学会の会員となる。 千葉大学を卒業後、中学校の教員に。望遠鏡をかつぎ理科の授業の手伝いや合宿先で子供達と夜空をみあげた。それは60才で校長を退職するまで続いた。
☆昨夏、今世紀最後の天文イベントである皆既日食を見に、夫婦でトルコ共和国へ行った。この『現象』はイギリスに上陸した後、フランスからドイツへと移動し、ルーマニア、ブルガリア、トルコ、イランを通り、最後はインドで消える。月の影が地球を通過するスピードは時速1200キロ。すべてが欠ける時間はわずか2分20秒。この2分20秒の天体ショーのために世界各国から人が集まってきた。 記念すべき8月11日。観測基地はアルジック小学校の校庭。北極星の位置を確認して望遠鏡を設置する。白鳥さんはその時のことを次のように話した。「 月が太陽を隠しはじめると、次第に暗くなり一陣の風が吹いたような気がした。14時26分すぎ、月が完全に太陽と重なって、あたりは真っ暗。となりの人の顔さえ見えない。35度あった気温が25度位に下がり、急な変化に寒さを感じて、体がふるえた。金星がレザー光線のように光り、コロナが太陽のまわりで輝く。そしてついにダイヤモンドリングが出現肢齔トに歓声があがった。言葉もなく見入る人、興奮して騒ぐ人、僕は胸がいっぱいになった。そしてこの感動を他の誰かにも伝えたい、と夢中でカメラのシャッターを押した。当時トルコは国情が不安定だったし、天体観測は天候に左右される。すばらしい観測ができたことに感謝した」。 深い余韻怩ンんなの間に今世紀最後の皆既日食をみたという連帯感、壮大な宇宙と向かい合い、自分達もまた同じ大自然の中で、同じ時間を生きているという一体感。話を聞いていて「 宇宙飛行士が宇宙へ飛び立った時、1日目は美しい地球の中にまず自分の国を探そうとする。しかし3日目には地球を一つの生命共同体としてみるようになる」の言葉が浮かんできた。
☆ ☆白鳥さんは退職した今も、反射望遠鏡と屈折望遠鏡をかついで、公民館や子供会、小学校に出かける。凍てつく冬の夜、ある小学校での観察会。「土星の輪がオレンジ色にみえたヨ」「 あの黒いのはクレーター? 」。子供達の無邪気な声が飛び交う。側で忙しく、でも楽しそうに動き回る白鳥さん。「 昔、鳥を見て空を飛びたいと思った人がいた。永い時が過ぎて、今は宇宙へ行ける時代になった。果てしない宇宙の観測を通し、じっくりものを探求する心が育ってくれれば」。一つのものを探求することは、自分をみつめ、周囲をみつめ、あらゆるものへの敬愛につながっていく。
☆ ☆ ☆太陽系の惑星はおよそ45億年前に形成されたと聞く。悠久の時の彼方から届く星の光。「2035年の日食は、能登半島から中央アルプスを越え、茨城の水戸を通るんだよ」。宇宙現象の長いサイクルを考える時、否応なしに人間の寿命のあまりにも短いことを思い知らされる。 子供達と一緒に幾千のきらめく星々を眺め、自然の中に身を置いては、季節や暮らしを俳句に詠む白鳥さん。 『コップ半分の水』 という本を取り出して、「 あなたはhまだ半分あるi と捉える? それとも h あと半分しかないiと捉える?」と聞いた。長いようにも、短いようにも思える個々の人生と重なり合って、即答できない。が質問の向こうに、限られた時間を、精一杯いつくしむ白鳥さんの姿がみえた。   

ある小学校での観察会

トルコの子供たちと

 

 



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