去る1月27日、千葉市のぱ・る・るプラザちば大ホールで「万引きは少年犯罪の入口」と警鐘を鳴らす有識者をパネリストに迎えて行った『万引きシンポジウム』(主催・NPO『ユース・サポート・センター友懇塾』後援・千葉県青少年対策本部)は約350人の参加者が集う盛会だった。
この日、コーディネーターを務めた主催者の井内清満さん(千葉市緑区在住・友懇塾理事長・58歳)は、17年前から少年の立ち直り支援を手掛け、平成15年2月にNPOの同塾を設立。少年達と一緒に街頭の清掃活動や防犯パトロール、24時間電話相談等を受け付けている。
井内さんが今回のシンポジウムを思い立ったのは、「ついフラフラと」、「何となく」と、ちょっとした心の迷いから万引きに手を染めてしまう、ごく普通の少年が後を絶たない世情に心を痛めていたからだ。「日本では万引き等の軽犯罪を犯した少年を簡単に許してしまう傾向がみられるが、実は非行少年と呼ばれる多くは万引きの経験者。万引きを重ねた結果、再び後戻りができない重大な犯罪に行き着いてしまうから恐ろしい。万引きが少年非行の温床であることを皆さんに理解してもらいたかった。また、少年非行は些細なきっかけで誰にでも起こりうるもの。決して『うちの子に限って』と安心はできないという認識の共有も必要」と話す。シンポジウムのパネリストは、ジャーナリストの矢部武、東京都青少年育成総合対策担当課長の池田克史、千葉県少年補導員協議会会長の青木和義、KK日警保安業務課主任の橋本照雄の4氏。以下、各氏の提言の要約を。 (井上)
★アメリカの試み『万引きと少年犯罪』
矢部 武さん
米国では万引き、ケンカ、窃盗等の軽犯罪で逮捕された少年(少女)は、少年裁判所で裁きを受けるか、またはティーンコート(10代の子どもが検察官、弁護士、陪審員等を務め、同世代の犯罪者を裁くもの)を受けるなどの選択肢がある。前者の場合、軽犯罪者は簡単な書類手続きだけで無罪放免となるケースが少なくないので、「悪いことをしても罰を受けない」ことに味をしめ、2度、3度と同じ過ちを重ねる。その繰り返しで、万引きが強盗、暴行傷害、殺人等とエスカレートするケースが多い。後者は初犯者の場合には社会奉仕活動や謝罪レター、陪審義務等の罰を与えることで、自分の行為が被害者や地域社会にどんな損害を与えたかを認識させ、同時に罪の償いをさせる。その結果、どんな些細な犯罪でも後で必ず罰を受けることを頭と体で学んだ彼らは、簡単には同じ過ちを繰り返さないようになる。ティーンコートが軽犯罪者の再犯防止に大きな効果を上げているのは調査でも明らか。ティーンコートは2000年時点で全米46州の630地域で導入されているが、全米レベルでも再犯率は10%から15%にとどまり、少年裁判所の約40%よりもずっと低くなっている。日本でも「万引きが少年犯罪の入口になっている」という現実を真剣に受け止めなければならない時代を迎えている。軽い気持ちで、或いは非行グループに誘われるままに万引きをしているような少年には、被害者や地域社会に与えた損害を認識させて、罪を償わせなければならない。今こそ、万引きの再犯を防ぐためのシステムづくりが求められているのだ。
★単純のように見えて奥が深い万引き問題
池田 克史さん
万引きは言うまでもなく、刑法第235条に規定する窃盗罪。罰則は10年以下の懲役と定められている。しかし実際にはいくら警察が検挙しても、窃盗罪に罰金刑は定められていないし、犯人が刑務所や少年院に行くことは少ない。つまり、万引きは刑事司法の世界だけでは抑止力が働きにくい犯罪。しかし、どのような店でも売上の1%前後が万引きによるロスとの推計もあるので、すべての店を合わせると莫大な被害額が発生していることになる。たかが万引きと済ませられない問題だ。他方、警視庁が平成15年に万引きで検挙した者のうち約3割が少年。そのうちの約15%が14歳未満という由々しい現実もあり、少年非行の世界で見過ごせない問題である。万引きをする少年の多くはまだ非行の入口にいるのだから、様々な関係者がそれぞれに適切な働きかけをすれば立ち直らせることができるはずだ。
★家庭の教育機能低下を地域社会が補おう
青木 和義さん
万引きで捕まった少年やその親がよく「お金を払えばいいのだろう」と開き直ると聞く。事の重大さの認識の欠如が嘆かわしい。万引きをすれば大きな社会的、経済的な制裁を受けるという当たり前の常識を自覚させること。少年に社会のルールやマナーを守らせる主役は家庭にあるべきだが、その教育機能の低下という現状を考えると地域社会のサポートが必要かもしれない。
★万引き監視の保安員をケガさせる小学生
橋本 照雄さん
最近、少年の万引きの手口はより悪質化している。小学生でも携帯電話やメールを使う実行グループがいて、捕まる恐れから逃げようとして抵抗し、監視の保安員にケガを負わすという例が増えている。彼らはほんの軽い気持ちで実行する例が多く、ばれて初めて重大な犯罪を犯したと実感するので、何としても逃げたいと暴力を振るったりするのだ。