福井さんの愛犬『どんべい』(バセット・ハウンド種)の手荒い歓迎を受け、招き入れられたリビングはバリアフリー。今は亡き則子夫人の病気療養のため、16年前に東京から移住。バリアフリーのバの字もなかった時代に「土足で上がれる家を造ってほしい」と頼んで建てた福井さんの、奥さんを思い遣る優しい気持ちがうかがえた。
大手旅行代理店を退職後、5年に及ぶ献身的な看護を続けていた福井さんの唯一の慰めは、仕事で旅行企画の立案を手掛けていた豊富な経験から編み出した『マップトリップ』を楽しむことだった。
リビングの大きな机上には、よくぞここまで使い込んだもの、と誰もが驚くような1冊の古びたアメリカ&カナダ&メキシコの道路地図が広げてあった。「これがマップトリップ創案の原点となった地図。25年を越える付き合いだが、いつも私に新しい発見と感動を与えてくれる」と言う福井さんの創意で生まれたマップトリップとは、実際に出かける旅行ではなく、地図の上で旅行を楽しもうという知的な遊びだ。
「先頃、『小学生地理王選手権』というテレビ番組で、チャンピオンに輝いた子どもが勝因を『毎日地図を見ているから』と答え、『地図を見ると夢が膨らむ』と言っていた。これこそがマップトリップの発想なのだ」と福井さんは笑みを浮かべる。
福井さんがのめり込んでいるアメリカの旅を例に、マップトリップの楽しみ方を再現してみよう。今、アメリカは建国200年祭に沸く。その発展史に関心がある福井さんは、アメリカ人として初めてミシシッピ川から太平洋に至る大陸横断を成し遂げたルイス&クラーク探検隊(1804〜1806)の偉大な足跡を知りたい、とまず考えた。
彼らの任務は、ミズーリ川の源流から太平洋に至る水路を探り、地理、動植物、インディアン等についての調査。セント・ルイスを出発した一行はロッキー山脈を越え、1年半をかけて太平洋側のコロンビア河口に達している。次は、そのルートを地図で辿る。
「その後が楽しいのだ」と言う福井さんによれば、次々に調べたい事柄に出合う。それをクリアしなければ先に進めない。福井さんは調べるために現地から多くの資料や本を取り寄せる。もちろん原書だが、幸い英語が達者な福井さんには苦ではない。
最初に出合ったクリアポイントは、サカジュリアというインディアン女性。アメリカでは教科書に載り、2000年に発行された1ドルコインに肖像画が描かれているので、知らない人はいないという存在。16歳の時、通訳兼ガイドとして探検隊に雇われた夫と同行、生まれて間もない赤ん坊を背負った約1万キロの旅で、夫に勝る働きをしたという伝説のヒロインであることを知る。新発見にワクワクする福井さんは、次のポイントへ。
こうして次々に出合う『未知との遭遇』を受け止めて、そのテーマをひとつ一つクリアしながら、目指す目的地に向かって旅を続ける…。これがマップトリップの手法の大筋だ。
この『地図の旅』は、地名を知ることから始まり、その土地の歴史に関係のある人物や事物、道の移り変わり等を調べながら、目的地に向かう旅。いながらにして世界や日本の旅が楽しめるわけだ。
福井さんは一昨年の9月下旬から10月下旬まで1カ月かけて、米大陸3千キロを横断。電気や水道、水洗トイレのない家に泊まる経験もした。感動したのは、アイダホ州のサカジュリアの生誕地に立った時。苦労して調べた所だけに感慨もひとしお。名画『シェーン』での名場面「カムバック、シェーン!」での背景にあった山、グランドチットンを目の前で見た興奮も忘れられないひとこま。マップトリップで身につけた智恵を確かめる『実証の旅』を楽しんだのだ。
福井さんはマップトリップのほか、ボランティア活動に対する関心も深い。「我々世代の人間は、残された天与の大切な時間をどう生きるべきかという課題に突き当たるもの。私は苦労も多かったが、いつも先輩や友人、隣人達の支えで乗り越えてこられた。今後は、その感謝の気持ちをお返しするために、地域ボランティアの仕事をしたい」と考え、選んだ生涯学習インストラクター。すでに2級資格を取得。今、1級取得に挑戦中。
この資格は報酬を得るためのものではなく、ボランティアの仕事に生かせるキャリア。取り組む仕事は地域・公民館・図書館・博物館・青少年施設・婦人教育施設・スポーツ施設等で実施される様々な生涯学習のイベントに参加するボランティア活動で、企画立案や助言、指導等をする。
生涯学習の重要性を痛感する福井さんは、地域ボランティア活動の場を長生郡と考え、長生・長南・長柄・睦沢・一宮・白子の6町村の有資格者15人に呼びかけ、2月15日に『生涯学習インストラクターの会』設立準備会を開いた。
行政との関わり方、既存のボランティア活動団体との提携、会独自の活動プラン等を話し合ったが、賛同者の声を集約すると、「会員各自が持つ得意技を発揮して、6町村の発展の支え役としての活動をしよう」というものだった。
福井さんも「レベルに応じた旅行コースさえ設ければ、子どもから熟年層まで誰でも楽しめるマップトリップ。特に若い人達が、調べる作業の面白さに魅せられて読書好きになるメリットもあるので、ぜひ提案したい」と意気盛んだ。 (井上)