カラフルなラッピングバス『アーネス号』は、約1時間で姉崎のまちをぐるりとめぐる。だれもが便利に利用できる地域密着型のコミュニティバスは各地で走っているが、その多くは自治体の税金で運行されている場合が多い。姉崎のように、商店主たちが担い手となって走らせている地域は、全国でもめずらしい。
「空き店舗が目立つどころか、このまま行けば街から店が消えてしまう」と、市原商工会議所姉崎支部が、地域住民にアンケートを実施したのは2年前。慶応大学の学生の協力を得て、さらに細かな消費者ニーズを調査した。その結果、地域が商店に求めていたのは価格や商品の豊富さではなく、快適さや安全性だった。「商人の心意気が見えて来ない。現状では、ここに住みたいとは思わない」など、調査に参加した学生たちの言葉もショックだった。
商店主たちは『姉崎にぎわい協議会』を立ち上げ、心意気を形にしようと『門前市』を開催した。「商店主自らが変わろうとする気持ちがなければ、イベントもイマイチ盛りあがりません。門前市や産業祭の時、駐車場の問題から走らせた送迎バスが大変好評でした。今度はバスを走らせるためのアンケートをとったところ、病院や公共施設に移動するのに、高齢の方が大変苦労しているということが分かってきました」と話すのは、協議会代表の榊原義久さん(54)。
それから1年半。既存バス会社やタクシー会社との共存のハードルは高かったが、互いに知恵を出し合い、双方にとって良い方法を探った。商店主たちが走らせるバスのため、あくまでも名目は『お買い物バス』。様々な規制の中では、やりたくても出来ないことばかりだった。3月末までの試行運行期間を終え、行政の支援も決まり、4月から1年間の限定で運行が決定した。「本来は、ワンコインで乗れるというのが、分かりやすく、利用しやすいと思います。しかし、お買い物バスは現金での乗車は認められていないのです」と、乗車には商店で買い物をした人に乗車手形を発行している。
にぎわい広場を基点に、青葉台、椎津、駅をつなぐルートと、有秋台、椎の木台をめぐるルートで、姉崎をぐるりとまわる。バス停は、全部で34カ所。1枚の乗車手形でどこまでも乗れる。利用者は「週に1度は必ず利用しています。路線バスだと駅から歩かなければいけないけれど、病院の前で止まってくれるので助かります」「待ち時間に買い物をして、乗車手形をもらっています」「主人が入院しています。運転できないので、毎日利用しています」。知らない同士でも、なぜか会話がはずむのがアーネス号だと、運転手の杉田仁さん?は話す。午後からの便では、アーネス号は安心だからと、塾に通う子どもをバス停まで送迎する母親もいるが、時間帯やルートによっては、空のまま走る事も多いという。
「買い物をすませて乗車される方が多いので、皆さん両手がふさがっています。高齢の方も多いので、必ず着座を確認してから発車するようにしています。時間より安全、お客様にまた乗っていただけるよう、もてなしの心で対応しています」と、元観光バスの運転手だった杉田さんも、利用者とのコミュニケーションを大切にしている。
乗車手形のサービスが協賛店によって異なっているため分かりにくい等、まだまだ改善点はあるが、地域が支えなければ今年度で終わってしまうかもしれない運命にある。今回の継続決定には、商店だけでなく、病院、地元臨海コンビナート企業10社の協賛も大きかったという。6月1日からは、利用者のリクエストで運行時間とルートが変更になる。今後、同協議会ではアーネス号を使った『小さな旅・姉崎』の企画や『にぎわい瓦版』を発行するなど、より多くの利用を呼びかけ、姉崎のコミュニティを再生していきたいという。 (国)