人はいつの時代でも、自分という存在の意義を探しながら、果てしない旅を続けるもの。今回は、人生の常である浮き沈みの苦労を重ねながら、ふるさとの地域再生を目指すボランティア・グループの夢の事業に向けた熱い取り組みの紹介。
このボランティア・グループは、東金の『NPOのれんを守る会』(代表・熊木雄治さん・43)。停滞して久しい東金を活気溢れる『町』に再生させたい、という思いを共有する仲間が集まり、平成15年春に発足。真っ先に取り組んだのが町の実態調査。実態を知らずして何事も始まらないからだ。熊木さんは「町のありのままの姿を、町の再生を願う市民や業者に情報提供をすることで、我々の活動を理解する協力者やクライアントが参加してくれるに違いない」と読んだ。まずは市民の情報集め。行政、職場、学校、地域等の現状に対して、『どんなところが不満で、どのように改めるべきか』について調べ始めた。
調査員の登録数は100名を超えたが、活動費の不足がネックで調べは一進一退。そんな中、市の商店街を中心に、車椅子で入れるトイレを探し歩いた鈴木和美さん(51)の『市内のバリアフリー調査』は、地域社会の豊かな環境づくりに欠かせない条件だけに注目された。並行的に行った『消費者ニーズの動向調査』もそれなりに喜ばれたし、市に提供した『公共施設の利用状況調査』のデータも評価された。
しかし、現実は厳しい。行政や業者は「事業の具体的な実績がないので」と鈍い反応。ボランティア活動の協力者やスポンサーになろうという申し出は皆無に等しかった。
会の主なメンバーは、倒産経験のある元社長達。薪炭業の熊木さん、オートバイ販売業の鈴木さん、そしてコンピューター周辺装置メーカーを営んでいた渡辺健一さん(55)等、なけなしの金を持ち寄った三人組。「七転び八起きの経験者だけに建て直しは早い」と笑う鈴木さん。「活動資金の調達こそできなかったが、調査員が集めた各種の調査資料が役に立った」と胸を張る渡辺さん。
熊木さんは、「守るべき『のれん』の対象は店や事業所だけでなく、リストラに怯える父、子育てに悩み多い母、受験地獄に喘ぐ子ども、就職難に苦悩する学生や若者達、或いは使い道に困っている杉や竹、放置された農地等々、無数にあったこと」に気がついた。三人組は『放置されているもの、余っているものを集めると事業ができる』という確信を持つことができた。
会員の全員討議の末、山武地域に余っている山武杉、生えすぎている竹、荒れている農地、働く場のない若者達など、現在、活用されていない地域・人的資源を集めて事業化する『鴇の郷』構想をまとめ、守る会が主体の鴇の郷建設委員会を発足。スタッフに河田さとしさん、菅原博昭さん、宍倉丘衿(ししくらおかえ)さん、内山和美さんら4名が加わり、各自の協力が活かせる部署に就いた。
夢溢れる『鴇の郷』という命名は、会の支援者の一人、坂口和彦さん(元・県山武支庁長)の思いがきっかけ。その昔、東金が『鴇が嶺』と呼ばれていた頃、その空を舞っていた鴇を呼び戻したい、との自然回帰への思いに会員が共鳴、名付けたもの。
『和工房・鴇の郷』(成東町草深)は、建設基金を募金と借入金で創出、田畑や炭焼きの設備は地元農家から借り上げた遊休地の活用、そして県の里山条例認定事業や職親制度登録事業も受ける等、着実な第一歩を踏み出している。畑開きの3月21日は快晴。駆けつけた祝い客は約80人、迎える7人も含め笑顔また笑顔の一日だった。
今年度の事業計画は、(1)山武杉の山林や竹林の剪定や間伐で出る雑木・竹材の処理を請け負って里山の再生を図る。(2)雑木・竹材を炭に加工、その際できる灰を堆肥にし無農薬栽培をする。(3)都市部住民向けの安全・安心・健康をキーワードにした農産物や加工品(無添加みそ、焼き芋)、炭、竹酢液等の生産販売等を予定。当面は、無農薬野菜の栽培希望者の募集。
農業生産担当の渡辺さんは「参加される方にできないことがあれば、私達がお手伝いします」と説明。また、竹炭の炭焼き経験の募集も。「2泊3日・全工程55時間の本格体験ができるのが特徴。最終日には観光も楽しめます」と加工品生産担当の河田さんが呼びかけている。 (井上)