辰巳台にある労災病院には、全国でも珍しくふたつのギャラリーがある。昨年10月に開設した市民公開ギャラリー『たつみの空』は、地域のサークル、患者や病院職員などの希望者に提供する展示スペース。もうひとつは展示15年目となる、リハビリ患者を主とした障害者用ギャラリー、リハビリ美術館『明日への窓』だ。
院長の深尾立さんは、「総合病院は、地域医療の拠点でもあり、多くの市民が利用する施設。病気やケガで来院する患者さんたちには、殺風景な医療現場ではなく、少しでも心癒せる場所づくりが必要です。昨年、当院へ赴任してきて、リハビリテーション科周辺に展示していた『明日への窓』に感心しました。さらに他の棟でも白いだけの壁をなくせればと、地域の方の作品を展示する『たつみの空』を提案しました」と言う。展示は、外来棟2Fロビーの壁に約30点、地域のボランティアに調整委員会として運営を依託。出展は無料。委員会事務局の吉崎陽子さんは、「ギャラリーはとても好評。展示申込みも多く、年内まで予約がいっぱい。通院している方からの問合せや、気に入った絵を見つけたのでぜひ購入したいという申し出もあったほどです」と話す。
『リハビリ美術館明日への窓』は、リハビリテーション科のスタッフ4名で展示委員会を運営。通院患者を主に、県内各地の障害を持つ人の油彩、水彩、書などを飾る。このギャラリーを開設した言語聴覚士・安田清さんは、「不自由な手足や言葉を抱える患者さんたちに、生きがいづくりのサポートとして考えたものです。作品により機能回復も分かり、本人ばかりではなく、家族、病院スタッフの励みにもなります」と言う。15年前、12点だった作品は年ごとに増え、展示場所はかなり手狭になってきていた。2Fにギャラリーがオープンしたのと同時に、1Fのほぼ全域にスペースを増やし、約200点を常設展示できるようにした。
作は自宅で制作するのが基本だが、そのほか月1回、辰巳公民館で患者、家族などが集まる『青葉の会』で、交流を深めながら行われている。講師はボランティアで、絵画、書、水墨画の3名。前述の市民公開ギャラリー『たつみの空』事務局である吉崎さんは、この『青葉の会』の絵画講師で、設立当初からのメンバーだ。「筆を握って、のの字を書くことから始めた方が、やがて風景を描けるようになる。その熱心さと努力は、私たちでは真似できないほど」と言う。その熱意からか、ギャラリーには衝撃を受けた、感動した、というたくさんの感想が寄せられる。長期入院で落ち込んでいる人、慢性疾患で悩んでいる人、ガンなどで手術を繰り返している人、その家族たちが、「私も病に負けず、頑張ります」と書く。「ギャラリーは、展示替えや作品の落款を彫るなど、多くの地域の人たちの好意によって支えられています。それを来院した方たちが見て喜んでくれて、制作する患者さんも病院スタッフも元気づけられる。作品を通じた交流の場でもありますね」と安田さん。
労災病院の外来患者は1日平均1200人から1300人。ベッド数は400、見舞いや付き添いの人たちを合わせると利用者は約2000人を数える。院長の深尾さんは、多くの来院者、入院患者にとって病院全体が心安らぐ場所となり、一般の人たちが活動し発表できる場にしたいと、ギャラリーを全館に広げる考えだ。絵を下げるレールも順次取りつけ中で、最終的には病室にも作品を飾りたいという。さらに昨年末から合唱やアコーディオンなど子どもたちやサークルの演奏を企画、月1回開催できるよう、地域に呼びかけもしている。「患者さんと一般の方、我々病院スタッフが、感動や励みになることで交流すれば、院内で何かしら楽しみができる。それで患者さんが元気になり、病が早く治れば何よりです」と深尾さんは話す。 (米)