NO.55


体験 感動 学び 発見

『われらプロジェクトin小草畑』

だれもがそこにいる意味があり、
役割があり、価値がある

 市原市南部。里山の集落小草畑には、今も昔の風景が残る。『里山塾やまとや』では、空き農家で宿泊しながら、子どもたちと共に農の記憶を形にする。井戸水を使って、かまどや囲炉裏で食事を作り、ドラム缶風呂に入る。体験を通して地域から学んだことを、自分の暮らしと重ね合わすことで、互いが認め合えるまちづくりや人づくりへつなげたいという。

 いとこ同士の柴田久美子さん(52)と田頭祐子さん(51)は、幼い頃小草畑に住む祖父母を牛久から毎週のように訪ねた。「この橋を渡ると、首を長くして私たちが来るのを待ってくれているおじいちゃん、おばあちゃんの顔が見えました。うれしくて、ふたりして競うように走って行ったのを、今でもはっきり覚えています」。「学校が昼までだった半ドンの土曜日になると、未舗装の道をバスに揺られて1時間。バス停から歩いて1時間。途中にある暗いトンネルは、ふたり手をつないで一気に走り抜けました。私たちが来ると、近所の子も寄って来て一緒に遊びました。家の裏で鬼ごっこ、裏山で秘密基地づくり。イチジク、カキ、ナツメ、自然の恵みはそのままいただきました」。「時間を忘れて夢中で遊んだその中で、命の大切さや物事の善悪を学び、明日もがんばろうという気が起きたように感じています。私たちは、遊びから生きる力をもらっていたのだと思います」と、姉妹のように育ったふたりは話す。
 混ぜたワラが見える土壁。土間のかまど。黒光りする上がりかまちの向こうには囲炉裏。天井の梁の煤に歴史を感じ、柱の傷に思い出が残る古民家の屋号は『やまとや』。「祖父母がここに住んでいたのは昭和43年まで。その後は、地元の人に管理をお願いしています」と、住人はいなくても手入れは行き届いている。上総掘りで掘り抜いた裏の井戸も、枯れることなく今もこんこんと湧き続けている。周囲の多くの田んぼはゴルフ場となったが、すぐ裏の谷津田は今もホタルが飛ぶ環境が残る。「思い出がいっぱい詰まったこの家を壊したくありませんでした」と、古民家を活用して昔の暮らしを体験する『われらプロジェクトin小草畑・里山塾やまとや』をスタートさせたのは一昨年。これまで、5回の自然体験活動を行っているが、サポートする大学生たちは「僕たちの小さい頃は、今よりは外遊びをしていましたが、こういう風景の中に来るのは初めて。すばらしい活動に、手伝うというより自分たちも楽しんでいます」と、2度目の参加となる大学生は今回友人を誘って来たという。
 「市街地にも公園はありますが、火を使ってはいけません、ボール遊びをしてはいけません等、禁止事項ばかり。お日様の下で思いっきり遊び、夜の闇を体験する。水遊び、木登り、泥んこ遊び。みな大人が子どもから奪ってしまったものです。群れて遊ぶことができない子どもは、ビデオやゲームなど親の目の届く家の中で遊んでしまいます。ここには、子どもがしたいことを気が済むまで出来る時間と環境があります。おじいちゃんが作ってくれた竹トンボや水鉄砲。おばあちゃんが作ってくれた素朴なおやつ。橋のそばにあった雑貨屋さん。私たちのあの頃の楽しい思い出を、今の子どもたちに伝え、体験してもらうことで気づいて欲しいのです」と、代表の田頭さんは話す。
 里山が紅や黄色に色づく秋『里山塾やまとや』のプログラムは、地域のお年寄りに昔の暮らしを聞く『小草畑の昔しらべ』。市内から参加した小中学生には、事前にお父さんお母さんの子どもの頃の話を聞く宿題が出ていた。午前中、それぞれが聞いて来た『ちょっと昔の話』を発表し合い、お年寄りのインタビュー内容をリーダーの大学生のお兄さん、お姉さんとまとめた。今回は、東京杉並で活動する建築家やまちづくりの専門家もサポートスタッフとして加わり、全部で16名が参加した。
 「ちゃぶ台って知ってる?みんながテーブルでご飯食べるようになったのって、いつ頃からだろうね」など話しながら、庭でにぎやかなランチタイム。そして午後、いよいよ本番だ。やまとやから歩いて数分、大学生と共に近所を訪問する子どもたちは少し緊張気味。自己紹介をすませ、縁側に腰掛けたお年寄りに用意した質問を投げかけた。「おばあちゃんは朝何時に起きて何時に寝るのですか?」「子どもの頃、どんなもの食べていましたか?お祭りの時のごちそうは?」「小さい頃はどんな事して遊びましたか?」ドキドキしながらも、子どもたちの興味は尽きない。お年寄りも、自分の話に一生懸命耳を傾ける子どもたちに、記憶をたどりながら一つひとつていねいに答える。
 地域の小学校は、全校生徒あわせても40人足らず。少子高齢化は、過疎化が進む山間部では、都市部よりさらにきびしい。「昔は、たくさんの子どもたちがいたけれど、今は年寄りばかりになってしまってさみしいね。こんな話でいいのなら、いくらでも話すよ」という。「ご近所の方は、みなさん私たちの幼い時を知っていてくれる人たちです」と田頭さん。どちらかというと閉鎖的なこの地域で、見知らぬ人でも快く受け入れてくれるのは、小草畑と外をつなぐことのできる田頭さん、柴田さんの存在があるから。
 体験学習のみで終わるプログラムが多い中、『里山塾やまとや』では事前学習と組み合わせた体験を、少し時間を置いて事後学習する。段階を踏むことで、多様な価値観で互いを認めあい、支えあうことを、子どもたちに気づいてもらうのがねらいだ。1月29日(土)、地域とのつながりをさらに深めた活動にするため、小草畑のお寺に地域住民を招いて、体験をポスターや劇にして『農の記憶』の発表会を行う。 (国)

柴田 TEL/0436−92−2048 icho7581@nifty.com
田頭 TEL/042−326−3132 tagashira1@jcom.home.ne.jp

柴田さん

左端が田頭さん





  

 



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