昨年は新潟県中越地震が発生。また、身近な所で起こる犯罪も増え、日頃の備えに対する見直しを改めて迫られる一年だった。あわてて関連商品を、購入した家庭もあるのではないだろうか。そんな中、若宮一丁目町会(会長・大槻邦男さん)では昨年来、地域の実情にあわせた防犯・防災活動に力を入れている。他からの支援が期待できない大震災直後。人間関係の希薄さにつけ込む犯罪。60代以上の人が多くを占めるという同町会で、そんな暮らしの脅威に立ち向かう、まちづくりの現場におじゃました。
市北部にある若宮一丁目町会は、世帯数約400戸。造成から約30年の若宮団地にある、静かな街だ。
「『今までは警察や市など、行政に頼りすぎ。自分たちのまちは自分たちで守ろう』と取り組むことになったんです。その後、新潟で大地震。なんという偶然かと驚きました」と防災リーダーの菅家啓一さん(61)、防犯リーダーの岩田光弘さん(67)は言う。
◆ 防犯は『○○ついでに』
実施するのは『ながらパトロール』で、自主参加のメンバーは現在37人。身体や気持ちの負担にならない様、時間や場所は割り当てない。各人が買い物や散歩等のついでに防犯の腕章をつけて歩き、自分がまわった日時などを記録する。月に1度だけメンバー全員で集団巡回するが、その時に担当の岩澤さんが各自の記録を回収、前月の記録集計結果を配る。
結果を見るとこれまで、朝5時から夜22時以降も必ず誰かが巡回。1日平均12人が参加し0は1日もない。のべ参加人数は月平均約400人。岩田さんは「合い言葉は『気楽に・気長に・危険なく』。初めは参加人数を心配していましたが、当初より多くの人が巡回を日常に取り入れてくれています。今後もずっと続けたい。犯罪の未然防止が目的ですから危険な事は警察へお願いします」。今後について岩澤さんは「最近は子どもを狙った犯罪も心配。登下校時間、お母さん方にも参加してもらえたらいいなと思います」と話す。
一般に『声かけ』は犯罪抑止力になると言われる。ここでも巡回中に心がけるのは『何気ない挨拶』だ。「腕章をつけてるだけで挨拶しやすくなり、向こうから声も掛けてもらえる。それが励み」「今まで仕事ばかりで分からなかったが、近所の変化に気づけるようになった」とメンバー。巡回中、柿をおすそ分けされた人もいる。パトロールは、犯罪防止と共に、地域のつながりもより強くしている。
◆ 等身大の防災
「ここは若干高い所に造成された住宅団地で、大雨による水害はそれほど心配ない。そこで地震災害に重点的に取り組もうと決めました」。そうリーダーの菅家さんは言う。「素人では当初とっかかりがつかめず困りました。そこで、たまたま町内に住んでいた消防のプロに『防災アドバイザー』として提案してもらい、町会でできることとすり合わせしました」。手始めに、町内の建物構造等を調べて防災地図を作成。結果、一丁目は耐火構造の家屋が多く、広い通りや公園で区切られる、延焼しにくい立地と分かった。そこで地震直後の初期消火を中心に対策を練ることに。その一つが、雨水を利用する簡易消防車『アメタンカー・ケセルダー』だ。タンクを台車に乗せホースを取り付けた手作りだが、モーターによる放水で住宅2階まで水が届く威力がある。
緊急時は、急を知らせる素早い連絡網も必要。「消火活動も含め最初は、きちんとした消防組織を作ることを提案されましたが、団地族のここでは消防団はもちろん、何代も前から続く様な地域のつながりもない。そこでとりあえずは町会組織を利用し、班長と役員にブザー付ハンドマイクを配り、緊急時の連絡に活用することにしました。班長には緊急避難に対する班内の把握をお願いしています」
そして何と言っても一番大切なのが、いざという時の住民の団結だ。そこで「防災訓練は、昔やっていた町内運動会の様な、住民のコミュニケーションを高める機会の一つとしても捉えました」。2回目となった昨年11月の訓練は、震災の記憶も新しく160人近くが参加。アメタンカー・ケセルダーの放水やバケツリレー、応急担架での運び出しなど皆一緒になっての訓練、炊き出しの温かいトン汁には知らない者同士も笑顔に。訓練の内容も現役消防署員が「この地区でこの規模の訓練は最高レベルです」と舌を巻いた。
「防災の備えといえばこれまで『水や食料をそろえねば。でも予算も場所もない』と困っていました。『それならそこまでは各家庭にお願いし、町会では薪など個人で用意しきれないものを』とアドバイザーに言われ、一見当たり前の様なんですが、これは目からウロコでした。これからも限られた予算で知恵を絞り、町会に合った備えをしていきます」
構成員に高齢者が多い同町会。これだけのことを同時に取組み、しかも維持できる秘訣は「できる範囲で頑張りすぎないこと」とのこと。年始にあたってもう一度、我が家と地域の備えを見直してみてはどうだろう。 (野)