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自身の 可能性 を信じ夢に向かって走る
中学生アスリートたち

 年の瀬の高校駅伝、元旦の実業団駅伝、そして箱根の大学駅伝と、年末年始はタスキをつなぐ駅伝から目が離せないという人も多いことだろう。「陸上競技は自身との勝負。自分をどう鍛えるかが試される競技です。特に精神力が問われる長距離においては、苦しさをどれだけ超えることができるかが記録につながります」と、市原アスレチッククラブ(市原AC)監督の松原光徳教諭(44)は話す。
 平成15年5月、小学生にはあまり親しみのない陸上競技を楽しんでもらおうと、松原さんは県内でも数少ない陸上のクラブチームを市原で発足させた。小学生4〜5人でスタートしたメンバーは、的確な指導が受けられると、市原市近隣からの参加も加え、現在60名ほどに。活動4年目の昨年、設立当時の小学生は中学生となり、市原市立八幡東中学校1年生の田子大輔君(13)は県総体と関東大会で大会新記録を出し、第37回ジュニアオリンピック陸上競技男子Cクラスでは100メートル11秒35という歴代2位の記録で優勝。県チームの第一走者として走った400メートルリレーでも優勝し、2個の金メダルを獲得した。また、市原AC設立当初からのメンバーでもある市原市立五井中学校3年生の財津絵美さん?は、昨年の全日本中学校通信陸上競技大会の共通女子800メートルでは3位の成績を残し、千葉県通信陸上で出した2分13秒46の記録は現在全国ランキング7位と、市原陸上界の期待の新星だ。
「千葉県の陸上のレベルは全国的に見ても大変高く、市原ACには2人の他にも県チャンピオンが多くいます。よく素質があるからだといわれますが、その前にそれぞれが見えないところで、きちんと努力しているから秀でることができるのだとお伝えしたい。どの子も学校やACでの練習の他に、家に帰ってもストレッチや様々な練習をしています。このような毎日の積み重ねが、一歩前へ出る差になっているのです」と、松原さんは話す。子どもたちの体力低下が社会問題化している中、特出した運動能力を持つ子の多くが、小さい頃からスイミングスクールや、サッカー、野球といった地域のクラブチームでスポーツに親しんでいるのが今の特徴になっているという。

目標が達成できなかった時こそステップアップ の チャンス

 サッカーをしていた田子大輔君が、足が速いからと誘われて初めて陸上大会に出場したのは小学校5年生の8月だった。「気は進まなかったけれど、走るのは嫌いではなかったので参加しました。長い距離は苦手だったので、短距離の100メートルと幅跳びに出場したら両方優勝し、その後も出れば勝っていました。中学に入学してからは、もっと記録を伸ばしたいと思って本格的に指導を受けました」と話す。身長168センチ、体重58キロ。陸上を始めて1年足らず、その記録はずば抜けていた。市原ACには中学入学前から顔を出すようになっていたが、入学した八幡東中には陸上部はなかった。時同じくして、八幡東中に体育教員として赴任したのが市原ACを立ち上げた松原光徳教諭だった。
「放課後の練習は、松原先生の指導でやっています。実は僕、小学校の頃はいたずらばかりして皆を困らせていました。こんな形で注目されるようになって勉強も頑張るようになったし、自分自身きちんとしなくてはいけないと思うようになりました。陸上は、今の僕にとっては遊びと同じくらい楽しいこと。だから、練習も苦ではありません。目標は来年中に10秒台を出すこと。そしてジュニアオリンピック2連覇と全国大会優勝です」と、笑顔で答える。
 学校とACでの練習の他、家でもストレッチや筋トレ、縄跳びなどが日課だという。「スポーツは技術より精神力です。子どもたちは普段の生活の中で我慢することを学び、日々の積み重ねができる子が飛躍的に伸びています。田子君の場合、13歳という年齢で自分自身をきびしく見つめられる精神レベルがあるからこそ上へあがっていけるのです。そして期限を切った目標を持つことで、この1年、今日1日、何をするべきかが見えてくるのです」と、松原教諭はこの半年間の田子君の人間的な成長を大いに認める。
 財津絵美さんが通う五井中学校は、市内21ある中学校で陸上部がある4校のうちのひとつ。60名の部員を指導するのは水野了一教諭(33)。「ずば抜けたスピードが持ち味の中距離ランナーです。私たちはそれが生かせる指導を心がけています」と話す。財津さんは、ハイレベルの相手がいる中で、さらに自分を強くしていきたいと、陸上強豪校への進学を希望している。「目標は高橋尚子選手です。いつかはフルマラソンをやってみたいとも思いますが、高校入学後はインターハイ入賞、駅伝大会出場を目標に全国優勝を目指したいと思っています」。近い将来、タスキを肩に年末の都大路を駆ける財津絵美さんが見られるかもしれない。
 特に精神的な強さが求められる長距離は、自身との戦いになる。「心が負けると、足も止まってしまいます。自分の可能性を信じて走り続けようと、自身に言い聞かせながら走っています。家では母が料理で栄養面にとても気を配ってくれます。父は仕事が終わってから自転車で夕方6キロのジョック、3キロのスピードに付き合ってくれます。コーチや家族、みんなの応援が私の支えです」。160センチ、47キロ、この3年間で身長は20センチ伸びた。「レースの前には、大好きなきな粉餅を食べます」と話すが、お菓子はめったに口にしない。太りすぎても痩せすぎてもトップアスリートにはなれないからだ。自己管理能力も、記録を伸ばすための大切な要素として求められる。
 やる気のある子ども、応援したい親。スポーツを科学する今の時代、良い指導者との出会いが夢を形にするキーとなる。前例がない中、手探りでスタートした市原ACの存在は、市原の小、中学生の陸上を確実にレベルアップさせた。「将来陸上を続けていなくても、ここで学んだことはいつかきっと役に立つはずです。競技に臨むのはひとりですが、皆に支えられて自分がいることを、この子たちはきちんと理解しています。たとえ結果が出なくとも、目標を達成できなかった理由を探ることはステップアップのチャンスとなります。その成長こそが大きな宝となるのです」。スポーツを通して、何事にも立ち向かう強さと、周囲を思いやるやさしさを育みたいとコーチたちは指導にあたる。後に続くアスリートたちの目標になれるよう、今後も2人を応援したい。(国安)

 



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