あすみが丘のメインストリートから少し入ったところに洒落た八百屋さんがある。「よく最初、何屋さんだか分からなかったと言われます」と苦笑するオーナーの大矢珠美さん(33)。それまで花屋さんだった店舗を友人たちの協力を得て改装した。
「ビジネスパートナー」である常世田正樹さん(33)と八百屋さんを開店したのは昨年4月末。以前勤めていた会社の同僚だった彼と、「完全無農薬・無化学肥料で野菜づくりをして、販売まで手掛けよう」という共通の思いから始めた。販売までとしたのは「最後まで自分たちの作った野菜を大切に扱いたい。作って終わりじゃなく、お客さんのもとにいくまでを見届けたいから」と話す。
店内には、野菜の他、「天日干し乾燥」した米、卵、ハーブや野菜で作ったジャムやハーブウォーター、ハーブソルトなど加工品も。「作った野菜を1個たりとも無駄にしたくないので、加工できるものは加工するようにしています」と大矢さん。
大網白里で暮らす大矢さんは植物が好きで、フラワーデザインの仕事をしていたが、「切り花を飾り付けるより生態系の勉強がしたくて」ニュージーランドに留学。帰国後、庭造りの仕事をするうちに農業に取り組みたいという気持ちが強くなり、半年の農業研修を経て青年海外協力隊として2年間アフリカで農業指導を行った。帰国してから幾つかの会社で働いたものの、常に「自分のやりたいことではない」という思いがあった。
そこで、「農業をやろう。今は食べるものがあふれているし、アトピーの子どもも増えている。やるからには、もっと環境のことを真剣に考えて無農薬と無化学肥料で」と考えた。とはいえ、大矢さんの実家は農家ではなく農業経験は浅い。パートナーの常世田さんも農業をやっていたのは祖父の代まで。が、農学部を出て博士課程を修め農業の経験はある。だから試行錯誤の日々ではあるが、野菜を「農業からの視点だけでなく、様々な方向からみられるように」と、野菜や果物のソムリエ版、『ジュニアベジタブル&フルーツマイスター』の資格を取得するなど、ひたむきで向上心がとても強い。
現在は、旭市にある常世田さんの実家の田畑と、他に土地を借りて野菜や米を作り、鶏の放し飼いもしている。抗生物質などの薬剤は一切与えず、エサは収穫し遅れた野菜やカキ殻、くず米などを。採卵して2日以内のものしか店に並べない。今では店の人気商品のひとつだ。
当初は2人で野菜づくりをしていたが、店を始めてからは分業制に。「毎朝、旭で野菜や卵などを収穫して店へ運び袋詰め。契約してくださっている飲食店さんや個人のお客様に配達したり、販売するのは私の役割」
店売りと飲食店に卸す割合は半々だという。飲食店からは受注生産で。天候に左右されやすい野菜づくり。そこにもってきて無農薬。「安定供給は難しい」と言われるが、「注文を受けたら、倍の量を確保できるように作ります。更に、ハウスで露地でと場所や作る時期をずらしたり種の蒔き方をかえてみたりもしています。農薬を使わない分、予防に力を入れ、木酢液など虫が嫌うものをかけたり防虫ネットで覆ったり、虫が嫌いなハーブを植えるなど自然の力を借りています。それでもついたら手で潰す!(笑)」。手間がかかるのは覚悟の上、と表情を引き締める。
国内外の珍しい野菜や新品種に挑戦する一方で、今では作られなくなった「味の濃い昔ながらの野菜」も栽培している。
安心・安全な野菜を子どもたちにも食べてもらいたいので学校給食にも取り入れてほしいと考えている。
そして、「ゆくゆくは店をインフォメーションの場にして、様々なことを発信していきたい。たとえば農業体験とか。畑と消費者をつなぐ窓口になれたら。私たちと同じスタイルで農業をやってみたい人、是非一緒にやりましょう。若い人の農業離れの原因には、きつい、休みがない、安定収入が難しいことが挙げられていますが、会社としてやっていけば、これらの問題は解決されるのでは。農業生産法人を立ち上げたいと思っています。休みは交代で取り、栽培したい人、加工品づくりしたい人、販売してみたい人、農業という大きな枠の中で、誰もがどこかで輝ける場所ができたらいいな」と熱く語る。(内田)