新たな社会人が誕生する春。2004年4月、御厨(みくりや)千恵さん(27)は出光興産株式会社製造部門初の女性総合職として入社した。団塊の世代が大量退職を迎える中、女性技術者を採用する企業は増えているが、ほとんどが男性社員という製造現場で女性が働くには、夫の協力、職場の理解が不可欠となる。
出身は九州福岡県。九州工業大学大学院で応用化学を学んだ。「学生時代から白衣を着て試験管を振るような研究は好きではありませんでした。研究室も、手にはボルトとレンチ、つなぎを着て実験するスタイルを選びました。就職も、規模の大きなものづくりの現場を希望しました」と話す。一次試験の後「製造現場で働くということは、想像しているより厳しいことかもしれません。あなたのイメージと違っていたらお互いのために良くないので、じっくり現場を見学してください」と、会社は御厨さんのために通常半日の製油所見学を2日間、特別に用意した。「思っていた以上のスケールの大きさで、私のイメージと違いはありませんでした。さらに興味がわきました」。御厨さんは、通常の新入社員研修を受けた後、男性と全く同じメニューでガソリンスタンドでの販売研修と1カ月間の製造部研修を経て、その年の6月に千葉製油所製油一課に配属となった。現場で1週間の研修を受けた後、24時間稼働する現場装置の運転スタッフとして交替勤務のシフトに入った。
「学生時代から付き合っていた彼との結婚が決まったのは入社2年目でした。たまたま同じ市原の臨海企業に就職していました。1年先に就職した彼は常勤でしたが、私はまだ交替勤務の研修期間中でした。上司の配慮もいただきましたが、もう1年やらせて欲しいと私から志願しました。1年間で現場担当者としては一通り学ばせてもらいましたが、温度や圧力など装置の制御をするボードマンの経験がしたいと思ったからです」。結婚前はもちろん、結婚後も御厨さんは交替勤務を半年間続けた。
炎天下でも豪雨でも毎日行う巡回点検。化粧は汗で流れ落ち、きれいに整える余裕もなかった。新居は夫の会社の社宅。夜勤明けで帰宅した社宅のベランダには、どこの家にも洗濯物や布団が干してあった。「自分が妻として、とても悪いことをしているように思えて、しばらく落ち込んでいたこともありました。でも、できないものはできない!きちんと洗濯できているのならそれでいい!と開き直ることも覚えました。夫とは家事も分担しています。特に決めてはいませんが、お互い認め合って互いに助け合うのが前提です」という。
結婚して1年。常勤になって半年が経つが、平日昼間の洗濯は今も難しい。大変な結婚生活のスタートだったが、職場では大事な経験を積んだと話す。入社3年目の現在、運転管理スタッフとして装置の生産調整、効率化検討の仕事を担当する。今年4月からは装置を全面的に止めて保守点検する4年に1度の大規模なSDM(定期修理)が始まる。準備で忙しい今は、特に仕事にも熱が入る。今後も、男性と同じように働き続ける上で一番気になるのは子育てだという。「育児休暇をとるのは、SDMの合間だと覚悟を決めていますが、産んだ後子どもを朝7時から預かってくれる保育所はあるのか、残業や休日出勤の時はどうしたらいいのかなど、解決しなければならない問題や不安はたくさんあります。将来、安心して子育てできる環境がなければ、女性たちが男性と同じように働き続けることはできないと思います」とも話す。
男性にとっては当たり前のことも、女性から見ると改善の余地を感じることも多い。後に続く女性たちのためにも、今自分ができることを精一杯していきたいという。だから女はわがままと思われることのないよう、身近な先輩たちにどんな小さなことも相談することも忘れない。平成19年3月現在、製造部門の女性総合職は9名になった。「育ててくださる気持ちも大いに感じる中、男性だったらもっと厳しい指導があるのではないか、女性だから遠慮しているのではないかと感じる場面もあります。ありがたいような、申し訳ないような気持ちです」。父親のような年代の社員も多い職場でのコミュニケーション法を聞くと「積極的に自分から話しかけるようにしています。大先輩たちの高い技術、知識、ノウハウを学ぶためにも現場のオジサンたちと仲良くすることが大切だと思っています。全国どこへいくか分からない転勤も覚悟しています。夫だって海外転勤の可能性はありますが、その時はその時で考えます」と笑顔で答える。今後子どもが誕生すれば、母として、妻として悩むことも多いだろう。後に続く女性たちのためにも、頑張って欲しい。 (国安)