「赤ちゃんの誕生で始まる、母としての人生。自分の力で産んだと実感できるお産で、母の自信を深めてほしい」
自宅の一室を開放、お茶や気軽なおしゃべりを楽しみながら、妊婦さんの自発的な学びの場・サロン作りを年内に目指す、市原市北国分寺台在住の助産師・正林恵理子さん(32)。正林さんは、社会人留学で英ロンドンと仏パリで製菓の勉強をした、助産師としては異例な経歴の持ち主。しかしそこで、助産師として、また生き方や考え方に、大きな影響を受けたという。
はじめは服飾関係の仕事を希望していた正林さん。だが母が助産師、姉も看護師で、高校卒業後は周りの勧めるまま看護師の学校へ。その後、整形外科に3年勤めるがやりがいを見いだせず、一度看護師を離れようと、語学留学を決意する。
「以前行った海外で、もっと話せたらという思いもありましたし、何より英語は世界の共通語ですから、自分の世界が広がると思ったんです。それなら、発祥の地・イギリスだろうと」
99年渡英。だが思うように語学が身に付かない。何かを得たくて焦りを感じていた時、たまたま出会ったのがル・コルドン・ブルー製菓学校だった。約1年学び帰国。そこで出会った友人と、今度は製菓の本場・パリへ行くことを約束して。その間、看護師としてのキャリアにも転機が訪れる。
「私が留学した年、母が助産院を開業したんです。一時帰国中に手伝ううち、大変だけど楽しそうに働く母の姿、生まれたての赤ちゃんと幸せそうなお母さんの姿に接し、私も助産師を目指そうと思いました」再び看護職と向き合えたのは、この留学も大きいという。
「流されるままに生きていると、自分が思うところには行けない。ちょっと大変でも意思を持って進めば、ちゃんと方向が定まっていく。それが実感できました。うわべのつき合いでなく、本当に一緒にいて楽しい、ためになる人と出会えた。それが製菓学校での出会いでした。精神的に強くなったと思います」離れてみて家族のありがたさも身にしみたと話す正林さん。これも、助産院で見た母子の姿が強く胸に残った理由かもしれない。
帰国後、助産師資格を取り実習先の病院に勤務していたが、一方でパリでの勉強の続きも気にかかっていた。悩む正林さんに、母の文子さんは「30歳超えると1年が大きい。行きたいのなら早く行った方がいい」と背中を押してくれた。
05年から1年、リッツ・エスコフィエ等で再び製菓の勉強を始める。趣味を極めた形のフランスでの生活は、人生や社会のあり方を実体験する場でもあった。
「フランス人は『男らしさ女らしさ』を大切に、自然体でステキに歳を重ねている。特にマダムたちは、年を重ねたことでしか出せない魅力にあふれてて。洋服なども、高い物を『着飾る』のではなく、自分に合う物を『着こなす』。物事の本質や自分をよく知っているんですよね。助産師もやっぱり年を重ねた方が、貫禄とか頼りがい、『母』という感じが出ますし、同じようにいい歳を重ねたいと、強く思うようになりました」
また、フランスは欧州でも出生率が高い国として知られている。国の補助も厚く、出産まで費用がかからない。産院の対応も良く、経産婦のほとんどが、人生の一番いい思い出を『お産』と答えるそうだ。「日本もそういう国になったら未来が明るいなと。私もそんな仕事がしたいと思いました」
そのための一つが、妊婦さんのサロン作り。日本の現状として「国の補助がフランスにくらべたらまだまだで、妊婦さんもお産に対して産院に『産ませてもらう』という受け身の方が多いように感じます。妊娠から出産まで、もっと主体的に捉えられたら、こんなすばらしい体験はありません。そのために助産師として、体だけでなく心も支えたいと思うのです」と話す。
妊娠中はホルモンなどの影響で、心も体も敏感になっている時期。そのため、ネガティブにもポジティブにも物事を捉えやすい。しかも、お産時に必要なホルモンの分泌量は、陣痛時の精神状態に左右されやすく、難産を引き起こすこともある。心はとても大切という。
正林さんのサロンは、大勢で行う母親学級ではなく、少数で妊婦さん同士が自分の経験を話したり聞いたり、そこに助産師が補助的に入って、お産を互いに支え学びあう場。妊娠中の食事や出産後の子育てまで、具体的に自分のお産をイメージできるように。実際、助産院などでも、陣痛の痛みも積極的に受け入れ、満足のいくお産ができた人はそれが自信につながり、自然と子育ても前向きになれると言う。『時が経って産まれた』のではなく、『自分が産んだ』そう思えるお産を目指す。
サロンでは、ハーブティーや、野菜を使ったお菓子を出したりといった構想も。
「欧州でよく飲まれるラズベリーリーフティーは、お産に必要な効能が高いんですよ。麦茶はカフェインがないからいいと思う方が多いのですが、血管を収縮させ、身体を冷やすのであまり良くない。こんな、知っているようで知らない、興味を持ってもらえる知識の伝え方をしたいです。指導する側としても、まだまだ勉強しなくては」
現在、母・文子さんの助産院と市原の産院で働きながら、マタニティヨガも教える正林さん。参加者の分娩場所は不問とのこと。希望者はぜひ問合せを。(野上)