潮干狩りで賑わう木更津金田海岸近く、広がる遠浅の海に小櫃川が注ぐ。その河口は、丈高い葉がそよぐ葦の原だ。海岸が開発されるまでは東京湾のあちこちにあったという、川と海が混じり合う湿地帯。東京湾に唯一残った自然干潟『盤洲(ばんず)干潟』を訪ねた。
案内人はこの干潟で漁業を営む漁師の金萬(きんまん)さん。NPO法人『盤州里海の会』理事長で、浜を豊かにし人と生きものが共存できる『里海』を守り、まちづくりにつなげていこうと数年前から盤洲干潟の保護活動を展開中。会のメンバーは地元の漁師を中心に、大学教授や研究者などの専門家から一般市民まで約70名、体験教室『ひがたの学校』や、生物の調査研究などを行っている。昨年度には全国都市再生モデル調査の選定を受け、この5月に干潟の利用調査のためにビジターハウス『海めぐりの里』を完成させた。豊かな海は豊かな森と川でつながっているという視点から、使う材木はすべて小櫃川上流から切り出し、それをログハウスにするまで、会員と『森林塾かずさ』『上総わくわく』の総勢50名による手作業で建てられた。廃棄物を出さず微生物で処理をする循環型バイオトイレもレンタルで設置し、誰もが無料で使え、調査アンケートも置いている。「木に囲まれ、通りからは見えないので、私たち『オヤジ』には秘密の遊び基地のような所。みんな楽しんで活動しています」と金萬さん。
干潟に入る道は、ビジターハウスから海に向かう1本のみ。木々に囲まれた丘を下ると、両側は背丈ほどの葦原。ゆるいカーブが続き、ところどころにノイバラが白い花を咲かせ、鳥の声が響く。葦がとぎれた所では、いくつもの細い川が湿原を潤しているのが見えた。その水辺には小さなチゴガニが何匹もチョコチョコと歩いている。「気温が高いとあまり姿を見せませんが、涼しい朝方には、この道を歩けないくらい、何種類ものカニたちがたくさん通りますよ」と金萬さん。やがて潮の香りが強くなり、低い草の中には海草のような肉厚の葉を持つものが増えてきた。葦原は『後浜』と言って、満潮になれば海水に浸される窪地も多く、海に近づけば潮に強い植物が増えてくる。さらに進むと突然葦原が途切れ、砂地の『前浜』に。干潮時には1・5キロ先まで歩いていけるほどの広大な浜だ。見渡す一面にぼこぼこと大小のカニの巣穴が無数に開いている。転がっていた朽ちた竹の下には数十匹のカニが隠れ、葦原との境にはテリノハイバラ、ハマヒルガオが群生して咲く。この砂浜には、カニや貝などの小動物が何万匹と生きていて、海を浄化してくれている。「ここには、東京湾でめったに見つからない『チクゼンハゼ』が大量にいて、たくさんのヤマトシジミに、藤色の殻をもつ珍しいアサリもいます。緑一面の葦原に住むアカテガニは、夏の満月の夜、海岸に何千匹と集まって産卵をします。貴重な自然の営みがここに残っていることを、多くの人に感じて欲しいですね」。緑の葦原、広大な砂浜。その風景に心洗われると通ってくる人もいるという。定期的に観察会や体験イベントも開催。協力金も随時募集中だ。詳細はHPで、問合せはメールにて。 (米澤)
http://www.satoumi.net