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NO.88

「人生の荷物も遍路の荷物も 軽いに越したことはない」

小杉文晴さん(60歳)

 徳島から香川まで88カ所を巡る四国遍路は、年間10〜20万人ともいわれる。その大半は車やバスを利用するが、1400キロの行程をすべて歩く『歩き遍路』も1000人程いる。ゴールデンウィークを利用して10年間で88カ寺の巡拝を終えた光風台の小杉文晴さんに伺った。

□始めようと思ったきっかけは何だったのですか?
「確たるきっかけは、ないのです。遊びの延長でした。48歳で始めたのは、定年の時に遍路を完了させたいと思ったからです。人生何があるか分からないので、予備として1年加えて12年。そんな大ざっぱな計算でした」

□実行するにあたって、いろいろ決めごとをされたようですね。
「まず『全部歩いて順番通りに廻る』。例えば町はずれで暗くなったら、その日はバスやヒッチハイクで次の町まで行って泊まりますが、翌朝はそこまで戻って歩き始めました。もうひとつは『それぞれの寺から家族に宛て、自分でスケッチした葉書絵を送る』でした。私は元々せっかちな性分で、歩き始めると先へ先へと急いでしまいます。これにブレーキをかける手段として思いつきました。やってみると、これがなかなか面白いのです」

□何時もひとりで歩かれたのですか?
「歩くのが好きではない家内は遍路は無理と考えていました。兄弟に声を掛けましたが、全部歩くと言ったらしりごみされました。でも結果として、ひとりの方がマイペースに歩けてよかったですね。四国遍路は弘法大師が一緒に歩いてくれるという意味で『同行二人』といいます。私の場合は『同行三人』。自宅で私の足取りを地図上でなぞってくれている家内が三人目です。そして年々『同行大勢』だと思うようになりました。家族に宛てた葉書絵とは別に、四国から友人宛に一字写経の葉書を出していました。遍路から帰ると、毎年励ましの葉書がたくさん待っていてくれたのです。つまり先祖を含めて大勢の人に応援してもらっている感じがしてきました」

□ 合計160枚の葉書絵は、奥様や息子さん宛が多いようですね?
「遍路をしなければ、妻や息子に葉書をあんなに出すこともなかったでしょうね。朝晩の電話連絡と、これだけ葉書絵を出したからこそ、10年間安心して送り出してくれたのだと思っています。宿を予約してしまうと、マイペースで歩けなくなるので、何時も行き当たりばったり。ゴールデンウィーク中ですから、宿が取れずに野宿を覚悟したこともありました。そんな時、近所の方が宿を提供してくれました。これが、四国遍路の『お接待』だったんです」

□『お接待』とは?
「歩き遍路をしているといろんなお接待を受けます。一杯のお茶やコーヒー、菓子、果物、食事等、最初は戸惑いましたが、ありがたく頂戴させていただきました。その方に代わって遍路を依頼されていると考えます。遍路がご縁で今でもたくさんの方と文通が続いています」

□背負うザックも、さぞかし重かったでしょうね。
「1日平均30キロメートル。10キログラムに満たないザックが夕方には何倍にも重く感じました。『人生は重い荷物を背に長い坂をゆくようなもの…』という人生訓がありますが、私に言わせれば『人生の荷物も遍路の荷物も軽いに越したことはない』。遍路を始めてから、これは私のモットーになりました」
□何でも継続することは大変ですが、秘訣は?
「自分と家族の健康、そして程々のお金。そしてどんな時でも楽しもうとする気持ちです」

 小杉さんは、今年4月で無事定年退職した。ウォーキングや登山など、歩きながら描いた葉書絵がとりもつ縁で知り合った友は数多い。先日開催した葉書絵個展の案内状は、プライベートな知り合いだけで700枚以上にもなった。北海道から駆けつけてくれた友もいたという。 (国)

 
ボールペンや鉛筆でデッサンした葉書に水を入れた筆ペンで色付け。
一枚仕上げるのに、ものの3分もかからない。
 



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