多くの社会人が誕生する4月。景気低迷のいま、就職はきびしい。新卒者に限らず障害を持つ人にとってはなおさらだ。
昨年3月、『市原市ろうあ協会』の長谷川智恵子さんと花摘すみえさんが、聞こえないハンディを乗り越えて介護ヘルパー2級の資格を取得した。現場で元気に働く彼女たちに聞いた。
◇ヘルパーの資格をとろうと思ったきっかけは?
長谷川 「介護保険がスタートする時、私たち聴覚障害者も制度を学ぶため『ろうあ協会』で講演会を開きました。その中でこれからは手話の出来るヘルパーも必要だと実感し、まずは私たちがと思いました。さっそく市主催のホームヘルパー養成研修に、ろうあ者も受講できるように手話通訳を付けていただくようお願いして、実現しました」
花摘 「知人の紹介で5年前から高齢者が多い職場で働いていました。実際働く中で資格も必要と、民間企業に問い合わせたら『手話通訳は自己負担で』と言われ、あきらめていました。でも市の研修に手話通訳が付くと聞いてチャンスだと受講しました」
◇勉強はもちろんですが、就職も大変だったでしょう。
長谷川 「手話通訳がない他の研修では補習も受けられないので、4カ月間1日も休めませんでした。そしてせっかく取得した資格です。活かしたいと、新聞折り込みの求人ビラを持っては障害福祉課の手話通訳にお願いして電話をかけてもらいました。耳が聞こえないと分かると断られましたが、あきらめずに根気強く面接を受け続けました。セントケア日本福祉サービスで面接してくださった時です。コーディネーターさんが手話で自己紹介し、話しかけてくださったのには、もうびっくりしました。私の気持ちも明るくなり、これで落ちたら耳が聞こえないからではなく、私の実力不足だと覚悟ができました。でも、その日のうちに採用が決まったのです」
◇今はどんなお仕事をされているのですか?
長谷川 「家庭を訪問して家事援助や複合型のケアも受け持っています」
花摘「清水脳神経外科のデイケアセンターでお年寄りのお世話をさせていただいています」
◇手話ができない人とのコミュニケーションは?
長谷川 「初めて訪問する時はコーディネーターさんが同行して説明してくれます。後は、ゆっくり話していただければ口で読みとります。違う発音でも、同じような口形をした言葉は携帯用のホワイトボードに書いてもらっています。職場との連絡は携帯のメールで。私たち聞こえない者にとって携帯メールは本当にありがたいものです」
花摘 「身振りと簡単な口話や筆談で。痴呆や耳の遠い高齢者も多いので、笑顔でコミュニケーションしています」
◇仕事に対しての周囲の評価はいかがですか?
長谷川 「聞こえないことで出来ないこともありますが、聞こえないことで見ることへの注意力は人一倍あるようです。自分では当たり前なのですが、その分気づきも多いと言われました。介護に伺っている家族の方から、違う日も私に来て欲しいと連絡を受けた時はとてもうれしかったですね」
花摘 「資格をとったことで、少しずつですが周囲の空気も変わりつつあるように思います」
◇これからの抱負を聞かせてください?
長谷川 「お客様が満足してくださるように一生懸命やります。いつか、ろうあ者だけのグループホームができるといいなと思います」
花摘 「老いはだれにでも来るものです。みなさんがろうあの高齢問題にも注目してくださることを願っています。ろうで見えない等、重複施設で働くのが私の希望です」
「ありがとう。聞こえなくても普通の人と変わらないね」と言われたときが一番うれしいという彼女たち。手話は全国的に認知されてきたとはいえ、ろうあ者の資格取得や就職には、まだ多くの壁が残る。そんな中、家族や仲間たちの協力を得て元気に働く彼女たちの姿は大きな希望を与えてくれる。 (国)
※この取材にご協力いただいた手話通訳の押田久美子さんに感謝します。