季節の花やチョウチョなどをモチーフにしたきれいな彩りの太巻き寿司。時田美樹さんは伝統や文化を大切にしたいと、光風台に祭りずしを扱う「わびすけ」を開店させた。
○お店を持つまでの経緯をお話いただけますか。
◆ここで生まれ育った私はお正月やお祭りなど、行事ごとに登場する祭りずしを、どこでもあるものと思っていました。ところが光風台に団地ができると、全国各地から転入してきた人達が「スバラシイ!」と異口同音に言うんです。これほど他地域の方に関心を持たれるなんて意外でした。その後、井戸端会議などで「房総の食文化を残したいネ」という話がよく出ました。
ちょうど40代半ばで、「自分を持って生きたい」と考えるようになってた頃でした。祭りずしを伝えていきたい・自分が生きているのは長い歴史の一点。過去があり今があり、そして・あらゆるものが未来へ続いている。一人ひとりは小さな存在でも、真剣に生きていく中から伝統や文化は作り上げられていくもの。祭りずしは、その昔、紀州の漁民が房州に来て伝えた、という文献が残っているそうです。遠く海を渡ってきたこの祭りずしを、おろそかにしたくないと思いました。房州に根付くまでの永い歴史に思いを馳せながら巻いていく、そこに私なりの価値を感じたのです。
○食文化と生きがい・?
◆もう一つ「疲れた時とか、誰かと話がしたくなった時に、女性一人でも入れて、ひと休みしてもらえるような安らぎの場をつくる」のも、大きな目的でした。そのためには近代的な建物ではなく、日本マンガ昔話に出てくるような家にしたかったのです。
○具体的には?
◆木は長い時間を経て生長し、人々の生活を支えてきました。ところが旧家の立派な家でも、主がいなくなると壊して処分するんだそうです。祖父母がいて、父母がいて、子供達がいる。日本古来からの家族の営みを、ずっと見守ってきた古い家。柱や梁、床板の一枚にも心のよりどころがあったわけでしょ。捨ててしまわないで、もう一度これらを生かしたい、そう思いました。
○気持ちは分かりますが、解体した古い材木を運搬して新築に使ってくれますか。
◆探しました。そういう人。知人の紹介で、古い木材を集めて、古き良き時代の家を造ることに情熱を燃やしている人に出会えたのです。意気投合し、その感性は私と100%一致しました。建築現場を見ては、感動のしっぱなしでしたね。
○オープンして2ヶ月半たちましたが。
◆長い間、人を見てきた木が、いま私達を見ていると思うと、いい加減なことはできませんね。「面倒」の一言で片づけられる時代だから、料理には手間をかけたいんです。手作りイコール心だと思うから。お客さんが「なつかしい味がした」とか「手作りの物は残せない」とパックに入れて持ち帰ったり、お花がしおれそうになると、新しいものを持って来て下さったり。本当にありがたいことです。
○自立の面では如何ですか。
◆時間がかかる割に大量生産できなくて、夜は10時頃まで下準備。翌朝は3時に起きて、巻き始めます。家庭のある人が動けば、どうしても犠牲は出ますね。スタートする前は「こういうふうに生きて行こう」と考えていたけれど、意欲的になればなるほど「これでいいんだ」という結論が遠のいていく感じ。なかなか好きなようには生きられないんだなぁ、と理想を追求する大変さを味わっているところです。でもね私、「今さら」って言葉が嫌いなの。今、生きていることが「人生真っ直なか」だと思っているから。時間的、精神的にも辛いけれど、自分自身に厳しくすることで納得させています。
世の中「心がない」と言われるけど、決してそんなことはない。誠意をもって相手を大事にすれば、人は『心』をもってきてくれる、と熱っぽく話す時田さん。「食文化を残すこと」「生きがいの追求」「女性の安らぎの場」の3本立てで、今日も季節感を取り入れたメニューや祭
りずしの色柄を考える。 (不)