絵が導いてくれた人生~油絵画家 高橋光夫さん~【市原市】

 市原市在住の画家高橋光夫さんの油絵展が五井西口ギャラリーで開催されている。第一美術協会会員、元審査員、日本美術家連盟会員、花巻イーハトーブ大使など多くの肩書きを持ち、受賞歴も多い高橋さん。これまで、千葉そごうや池袋三越、伊勢丹松戸店など有名デパートで個展を開催してきた人気の画家だ。描きためた作品で「二階が落ちるかも」(本人談)というアトリエで、お話を伺った。

絵を描かずにはいられない

「昔は今と違って遊ぶものなんてなかったから、絵を描いて遊びました。木の枝は頭の上にあるけど、遠くは低く見える…ああ、遠くは小さく描くんだな、という具合にだんだんと遠近法が身につきました」。そう語る高橋光夫さんは、1935年、岩手県花巻市の農家に7人兄弟の3男として生まれた。

 花巻駅までは歩いて2時間、広い土地を耕すため馬を3頭飼っていた。子供が農作業を手伝うのが当たり前の時代だ。「兄弟はみな馬の扱いが上手なのに、私は下手でね。馬の足を冷やそうと近くの小川に連れて行くんだけど、歩かそうとしても歩かない。私が馬に乗ると暴れて振り落とそうとするんです。母親に『これじゃあ光夫は百姓はできないな。婿にもなれない。学校に入って好きなことをやれ』と言われました」。そこで猛勉強して近くの高校の普通科に入学。ところが1年も経たずに高橋さんは退学を決意する。

「好日」第91回第一美術展(2022)

「普通科を卒業したとしても、当時は会社もない、医者になる頭もない、どうしようかと思っていたら、県立美術工芸学校の錚々(そうそう)たる先生の名前が目に入って『これだ』って。疎開で花巻に来ていた高村光太郎の講演を聴く機会があったのも大きかったと思います。ヨーロッパの美術の話をしてくれて、すごく憧れました。ボヘミアンスタイルを着てみせてくれたのもよく覚えています」。高橋さんは改めて岩手県立美術工芸学校に入学し直し、さらに県立盛岡短期大学(現在の岩手大学)に進学して油絵画家としての素地を作った。

 その後、東洋大学に編入、文学を学んでから社会人に。俳優座で約5年間舞台美術の仕事に従事、テレビ朝日の番組製作などにも携わった。給料も高く、花形の仕事は楽しかったが、勤務時間が不規則で「やっぱり自由に絵を描きたいなあ、勤務時間は規則的な方がいい」と公務員試験を受験。法務事務官から法務教官へとキャリアを重ね、絵の指導をする他、勤務外でも絵を描く時間がとれるようになった。退職後は法務省の依頼で篤志面接員(主に受刑者の指導や相談に乗るボランティア)になって絵の指導を継続。功績が認められて2016年に藍綬褒章を受章した(弊紙2017年3月3日号に関連記事)。こうして紆余曲折はあったものの、油絵を描くことは高橋さんの人生の大きな柱となった。

心に刻まれた原風景

 高橋さんは「馬の作家」と言われるほど、馬を描いた絵が多い。120号の大作『浮世絵雲の浜辺』は、海岸を馬が疾走し空には淡い浮世絵が描かれた幻想的な作品だ。「鵜原海岸でスケッチしました。そこに馬はいません。でも、描いているうちにここに馬を走らせたいなあと思ったんです」と高橋さん。「馬は身体が大きいのに足が細いでしょ。大地を蹴る力強さをどう描くか、難しいです。太く描くと象みたいになっちゃうから」

 立っている馬を正面から描いた作品もある。「馬はね、立っていてもすぐ動きます。足が何だかジタバタするんです。それを出すのが大変です」。足だけではない。鼻息でブルンと揺れる様まで見える馬がそこにいる。「馬の作家」と言われる所以である。高橋さんの心には、幼い頃馬と暮らした岩手の原風景が今もしっかり刻まれているのだろう。

 

●高橋光夫油絵展
・日時:7/5(火)~17(日) 10時~16時半
・場所:五井西口ギャラリー(市原市五井中央西2の11の5)
・休廊:(月)(木)
Tel.0436・98・3412

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