おわり
- 2013/8/30
- 市原版

おわり
文と絵 山口高弘
宵を迎えた街の急ぐような車列に流されて、あてのないドライブをどう終わらせようか、助手席の友人が考えています。白いランニングシャツのおじいさんや自転車の中学生が、そわそわと沿道を同じ方向に進んでいく。人が多いな。僕はスピードを緩めました。
大きな橋にさしかかると、欄干や中央分離帯の人だかりが空を見上げている。「花火か?」友人がつぶやいた時、右の窓で赤い大輪の花がぱあっと開くのが見えました。ドン!パラパラ。「近いぞ」欄干から覗く川面がまばゆく照らされている。友人がカメラを構え、僕は花火側の窓を開けました。
近いからって、近づけばいいってもんじゃない。音ばかりで、住宅や木々の隙間から見事に花火が咲くのを横目で見るだけ。沿道の歓声で打ち上げられたのを知るのです。友人は、運転する僕をよけるようにカメラを構えて次の瞬間を待っている。渋滞の隙間を浴衣の女の子たちが自転車でキャッキャと通り過ぎます、危ない、もうやめだ。引き返してスーパーマーケットに骨休めに入りました。
店内はがらんとしていて、ピーナッツを買ってレジを出ると階段が見えました。そうか屋上!駆け上がって視界が開けると、家族づれの歓声に囲まれました。屋上は、即席の大観覧席だったのです。「昼に急に決まったの。毎年解放してほしいわ」後ろのおばちゃんが興奮している。喧騒の中、手前の街路灯に照らされるようにして、さっきより小さく見える花火が遠くで連発しています。でもポンポン、の音が何だか、ばいばい、に聞こえる。
終わりね、お終まーい。おばちゃんが立ちました。本当は終わってほしくないのに。飾り絵本を閉じるように最後の花火が消えていく。夏の象徴は、横殴りに現れて夕立のように去りました。友人が、ピーナッツの袋をパン!と叩いて開けました。
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