『なつかしい未来の響き』に魅せられて
- 2014/3/14
- 市原版

講演∞奏者 飯島淳さん
洋琴という古楽器を用いて『講演∞奏会』を精力的に行うのは、市原市在住の飯島淳さん(32)。『講演∞奏会』とは、その名称の通り講演会の中に演奏を取り入れた飯島さん独自のスタイルで、音楽と講話を両方学べるというもの。「洋琴はピアノやチェンバロの祖先である古楽器。ブータン王国にも同種の伝統楽器がある。ドレミ的な音感はなく、演奏曲目も自作。弦は144本あるのでチューニングをするにも時間がかかり、30分叩いていると音がずれてくる。だけれど、弦から放たれる高周波成分を含む豊かな響きはとてもなつかしさを覚えるもので、一目惚れではなく一聴き惚れです」と飯島さんは洋琴について語りながらはにかんだ。
飯島さんが洋琴を初めて購入したのは2008年のこと。ピアノを打楽器として扱ってみる実験で、弦に消しゴムやボルトを挟んでみた。これはプリペアード・ピアノという技法だが、弦を傷つけるため実験に使用するピアノがなく困っていた時に出会った。洋琴は、ピアノの中身を取り出したような楽器で、プリペアード・ピアノ以上に様々な響きを得られるかもしれない、と気づいたのだ。
幼少時から妹の習うピアノやテレビCMの曲を、聴いただけでピアノで再現できた飯島さん。高校時代にティンパニーや鍵盤楽器に触れ、作曲も始めた。しかし、大学進学を選択する時は、環境問題に興味があり国際機関で働くことを志した。「大学と大学院では社会環境政策の研究と音楽活動を両立させながら、世界の文化を肌で感じたかった。オーストラリアの原住民であるアボリジニの文化を学びに短期留学し、タイには環境プロジェクトのメンバーとして約2カ月赴いた。そして、豊かな価値観と生き方を学んだブータン王国への訪問。そこで気づいたのは『音と音楽』の素晴らしさ。自分が現地で受け入れられたと感じたのは、やはり音楽を演奏している時でした」と飯島さん。そこから一気に音楽への想いが強まった。
その後、大学院の教育学研究科音楽教育専攻を修了し、文部科学省委託事業『音楽で心の居場所づくり』の特任講師や、県内にある中学や高等学校で講師、指揮者などを歴任。「洋琴は、音楽を自分の中でどう位置づけてやっていくか、音楽の価値を見つけたいと思っていた時に自然と入ってきた。学んだのは、音楽は文化に密着したもので各国独自だが、音の響きこそ世界共通のものだということ。そこを見直したい」と続ける。凛とした姿と論理的な思考は、様々な経験から培った確かな証に違いない。
飯島さんが様々なことを学んだブータン王国では、近年日本でも注目を集めた『国民総幸福量(GNH)』の実態と共に社会経済問題を直視してきた。物質的には最貧国であっても、衣食住が整い幸せ豊かに暮らす国。「卵を貰って、お返しに楽器を弾く。それが成立した。お金は豊かさの手段でしかない。日々の暮らしの中にある小さな幸せを見つけることが大事」と強く語る飯島さんは、「音や音楽もそう。
現在は、作曲するにもコンピューターを多用することでどんな音でも作れる。だけれども、尺八や太鼓など古来からある音を求める人が増えているのも事実」だという。確かに、近年の日本では、母国の伝統の素晴らしさを再認識しようという活動が多い。音楽、しきたりや作法、芸能などなど、触れるだけで心が落ち着く日本文化というのは不思議なものだ。飯島さんはそんな音への気持ちを、『なつかしい未来の響き』と名付ける。そして、「今はあまり聴けないけれど昔はもっと身近にあった音を、みんなが求めている。なつかしいのに、未来の音。洋琴に感じるのもそれ。音はずれるし不安定、だからこそいい。不完全だから素晴らしい」と説いた。
洋琴に魅せられた飯島さんは今後の目標を、「これまで教員、社会環境政策、音楽活動と学びたいと望んだ多方面で努力してきたつもり。義務教育の実状も理解し、音や音楽に触れ、そこから得る幸せの重要さも確信した。その上で、自分は学んだことを伝える、教えることが好きだとも再認識した。これからは、教師の道を歩みながら研究や音楽活動を継続したい」と話す。心地よい音を聴きながら毎日小さな幸せを見つけられたら、どんなに素敵なことだろう。
問合せ 飯島さん
musicjun@live.jp
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