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トラ君のトイレ
- 2014/12/5
- シティライフ掲載記事, 市原版

遠山あき
トラ君は我が家のオス猫である。生後二週間ごろ、友人の家から貰って来た。いまだ親の乳房に吸いついていたころだった。ところが、我が家のお隣の人は猫が嫌いだった。まだヨチヨチ歩きの幼児がいて、裸足で庭の芝生で遊ぶのである。山間の農村、野良猫は自由に遊びに来て排泄物を残していくが、知らない幼児はベチャッと踏む。さあ大変、その匂いときたら鼻持ちならない。家中の騒動になる。それで「猫は嫌い」ということになった。我が家では困ったが、トラ君はそんなこととは知らない。
そこで、猫用トイレ砂を買ってきて、トラ君の寝床の脇へ箱で置いた。さんざん人間語で言ってきかせた。極めて野放図なトラ君、聞いているやらいないやら。トラ君の将来にかかわることだから、こちらも真剣だ。ところが、五日たっても七日たっても、トラ君がこのトイレを使った気配がない。
困っていたら、ある小雨の日、何気なく生け垣の伽羅の根本を見ると、トラ君が盛んに匂いを嗅いでいた。やがて前足でその木の下を掘り始めた。拳大の穴ができた。匂いを嗅いで、その穴へお尻をつけた。少したって、そこをよくよく嗅ぐと、前足で土をかいて穴を埋め始めた。何度も匂いを嗅いでは土をかぶせ、やがて排泄物をきれいに埋めてしまった。もう一度匂いを嗅いで確かめ、「満足」といった表情になると、トラ君はトコトコと庭を出てどこかへ遊びに行ってしまった。
私は納得した。彼は我が家設置のトイレでは気に入らなかったのだ。先祖伝来の自家製トイレこそ最高であったのだ。以来、トラ君の排泄物で苦労したことはない。でも、トラ君はいつどこでこんな貴重な習性を学んだのだろう。我が家へ連れてきた時はいまだお乳を飲んでいて、親と外出してトイレの躾をされたとは考えられない。もしかしたら生まれながらに、トラ君のDNAに組み込まれている習性だったのかもしれない。
してみると、人に飼われて躾けられている犬や猫などのペットが、道端に多数の排泄物を露呈しているのはどうしてだろう。ペット流行のこの頃、マナーのない排泄物にみんな辟易しているのはなぜ? 私はトラ君のあの仕草を見てから考えこんでしまった。
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