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伝統工芸の張り子を 一宮の工芸品に【外房】
- 2019/11/15
- シティライフ掲載記事, 市原版
- 外房

長生郡一宮町在住の馬淵さち子さんは、玉前神社門前に構える自身の店『一宮張り子の店 ちゃらこ屋』で、張り子の制作および販売の日々を送っている。張り子は江戸時代に流行した郷土玩具で、犬やタヌキ、ウサギやキツネなどをモチーフにした人形が主だが、近年は後継者不足が一因で目にする機会が減ってしまっている。馬淵さんは、そんな張り子の継承を願って10年ほど前から制作をスタート、今年5月に同店をオープンさせた。
神奈川県川崎市出身の馬淵さんは、都内で大学講師として中国の美術史を教えていたが、結婚と出産を機に16年前、長生郡一宮町に移住してきた。「実家は川崎大師のお膝元、隣近所がひしめき合う下町でした。自然豊かな土地に憧れていて、転居した後も都内にずっと通勤していたんですが、数年前に退職。今は夫と息子が、私の制作した張り子に意見をくれたりして楽しいです」と、笑顔で話した。
張り子の制作方法は、まず木材を彫刻刀で彫って造形することから。そして、水で濡らした専用の和紙を張って乾かす。その後、切りこみを入れて中の木型を取り出す。木型と同じ形となった和紙に、貝殻を原料とする胡粉(ごふん)と動物の皮や骨が原料のにかわを水で溶き混ぜ合わせて何度も繰り返し塗った後、彩色を施せば完成だ。同時に数10個を並行して制作し、全工程におよそ1週間かかる。「お店を始める1年くらい前から、玉前神社さんの境内で屋台を出して張り子を売っていました。そこで小学生の子ども達から手頃に買える物が欲しいと要望があって、より工程が短い『土人形』も作っている」とか。張り子より少し重みのある土人形は可愛らしい顔つきだ。
「張り子の魅力は、貝殻という自然の色がもつ暖かさが生み出すぽってりとした質感。昔からの伝統的なモチーフの一つ一つに意味があることです。私は中国の美術史を研究していた時から趙孟頫(ちょうもうふ)という文人画家の考え方が好きです。昔の良い部分を残しつつも独自の技術を盛り込み、新しい物を創作する。張り子をそんな風に生かしていきたい」と、馬淵さんは強く願った。9月7日から長南町の大谷家具製作所で開催された『暮らしと工藝展2019』に出品したが、「あるカップルが、大谷家具さんのチラシを見て私の作品を気にいり、彼の誕生日という特別な日に購入したいと訪ねて来てくれました。私の張り子がちょっと特別な物になった気がして、嬉しかった」というように、制作は小さな幸せに溢れている。
「玉前神社さんへの参拝をきっかけに、今はお店に寄っていただけることが多いです。今後は、私のお店を目的に来たお客さんが、玉前様や商店街を訪れるという風に地域に恩返しできたら」と願う、馬淵さん。お店の定休日の木曜と金曜以外に営業中だ。ぜひ可愛い張り子に触れてみては。
問合せ:馬淵さん
TEL.080・8858・1218