新ギャラリーオープン! 大谷家具製作所~木の香り、土の香りのする工芸館~【長南町】

【写真】ケヤキ一枚板のカウンターと。左から鈴木さん、悦子さん、智明さん

 

 大谷家具製作所は2011年11月に長南町長南に工房を構え、この春で12年半。家具指物師の大谷智明さんが「暮らしを豊かにするお手伝いがしたい」と、人の生活や住まう空間に寄り添う家具を創りつづけている。4月6日には新ギャラリー工芸館がオープン。築22年の倉庫に自然素材にこだわったリノベ―ションを施し、新たに人の集う空間ができあがった。開館を記念し、特別展示会『大谷智明 指物家具展』『桂紗 ボタニーペインティングアート展』が4月21日まで開催されている。

同じ道を歩く仲間

ボタニーペインティング

 大谷智明さんは千葉市稲毛区の出身。駿河指物の静岡伝統工芸技術秀士の親方の下で修行をし、2006年に独立。2011年には工房を静岡市内から長南町に移転した。指物とは、ホゾと呼ばれる凸凹の切り込みを組み合わせ木を繫ぐ伝統的な木工技術のこと。2022年には、智明さんの作る指物家具が千葉県伝統的工芸品の指定を受けた。妻の悦子さんは高校時代の同級生で、静岡では家具メーカーの営業として家具づくりを学び、インテリアコーディネーターの資格を取るなど、智明さんと二人三脚で歩んできた。

 新ギャラリーのリノベーションを請け負ったのは、長柄町の建築家・鈴木了さん。金物を極力使わず、墨付け手刻みによる伝統構法の建築を手掛けている。2014年に移住した鈴木さんは、大谷家具の展示会を訪れたのがきっかけで大谷夫妻と知り合った。移住前、都内で住宅や店舗の建設に携わっていた鈴木さんは、法律に縛られ単純には自然素材を使えない建築に違和感を覚えていた。

入口からみた土巣

 ある時千葉の建築現場で、土地に余裕があり法規の厳しくない長閑な場所であれば理想の仕事ができるのではないかと感じたことを機に、移住を決意した。「1度つくったものはできる限り長寿命で次世代に引き継げるものをと考えている。大谷さんの家具は完成度が高く、なおかつ使いやすい。長年使われる理由がそこにある。ジャンルは違えど、とても信頼のおける同じ道を歩く仲間だと思っています」と鈴木さん。智明さんは「了さんは現場に足しげく通い、職人ともコミュニケーションをとり、不具合があればすぐ対処してくれる。そんな仕事ぶりを見ていたので、何かの折には了さんに頼みたいとずっと思っていました。天然素材にこだわり、手の仕事が多く、時間がかかるがごみを出さない、そういう仕事をされている。自分たちのモノづくりと共通している」と話す。

心地よい空間

地元での竹伐採作業

 工芸館に入るとまず目に留まるのが、部屋の中央に楕円を描く左官壁。鈴木さんは『土巣(つちす)』と名付けた。「土巣に沿って部屋を回遊すると、場所により見える景色が変わる。狭い空間でも奥行きができて拡がりが生まれる」。智明さんは「家具を正面から横からと見て、自然光や照明の陰影を感じる。動きながらいろんなシーンで家具を見てもらえる。その気持ちを汲んでもらった」と目を細める。

 鈴木さんは、在来工法で建てられた倉庫を部分的に伝統構法でリフォームするため、梁を耐震補強するなど、新築よりも手間のかかる作業を職人と共に1つ1つ丁寧に仕上げた。床に敷き詰めた断熱材はもみがら、柱の一部は古民家の材を転用したもの。カウンターは大谷家具で出番を待っていたケヤキの一枚板だ。アンティークの扉やステンドグラスなどを用い、リノベーションをした直後でも永い時間そこにたっていたと感じられる建築となるよう心がけた。土巣は大谷夫妻と鈴木さんの知人・友人の40名ほどの仲間による結(ゆい)と職人による共作だ。竹の切り出しや、土壁用の土作りなど材料はすべて地元で調達し、間柱を立て、竹を巻き、土を塗る作業まで、約9カ月かけ、にぎやかに作業しながら作り上げた。「プロとしての職人の仕事と、仲間で作った不均一だからこそ味のある仕上げが共存することで、さらに空間に多様性が生まれた。それらの手仕事自体が展示品の1部となった」と鈴木さんは胸を張る。

土巣に竹を巻く作業の終了時

「工芸館にいると思わずにんまりしてわくわくしてしまう。自分の家具作りではお客様のオーダーに応えられるようにという気持ちでやってきた。今回は了さんのおかげで自分が笑顔になれた。自分もそういう仕事をしていく、していかなければならないと思いを新たにしています」と智明さん。悦子さんは「これまで工房2階のギャラリーでは、階段の利用が大変なお客様もいらっしゃいました。路面店にしたら、もっとたくさんの方に家具と工芸品を見ていただけるんじゃないかと。家具屋は敷居が高い、買わないのに見るのは悪いなどと気にせず、気軽に楽しんでいただきたい。天然素材でつくられた心地よい空間にぜひお越しください」と満面の笑顔を見せた。『大谷智明 指物家具展』『桂紗 ボタニーペインティングアート展』はともに4月21日までの開催。ボタニ―ペインティングは、天然の蓮の葉やインド菩提樹の葉に絵の具で着色したアート。作家の桂紗さんは智明さんの姉で、神戸を拠点に活躍している。時間:11時~17時(最終日15時)、定休日:月曜・火曜。詳しくは問合せを。

 

問合せ:大谷家具製作所
Tel.0475・47・3530
・鈴木了建築設計事務所
メール:info@ryosuzukiweb.com

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