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壮絶な過去を持つ医師
- 2016/12/9
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夏苅郁子さん語る
9月28日、山武市成東文化会館のぎくプラザ視聴覚室にて『家族・当事者・精神科医の三位一体の私から、お伝えしたいこと』の演題で第1回NPO法人ピアサポートセンターげんき講演会が開催された。集まったのは心の病を抱える家族会などを中心とした参加者90名近く。今年1月に設立された精神障がい者の地域生活支援や日中一時支援事業を行う『ピアサポートセンターげんき』(代表一ノ宮博子さん)が主催した。
講師は統合失調症の母親を持ち、つらい子ども時代を過ごしたという児童精神科医の夏苅郁子さん(62)。中村ユキさんの漫画『わが家の母はビョーキです』がきっかけで、故人となった母親の病気と自分も学生時代に摂食障害となり、リストカットや自殺未遂をするほど苦しんだことを5年前に公表。著書『心病む母が遺してくれたもの』を出版した。「ずっと隠してきましたが、講演会などで堂々と活動する当事者や家族に出会い、自分が精神科医として今生きていることは奇跡に近い幸運だと気づき、お返しがしたいと思うようになりました」と優しい口調で語る。
医学生だった夏苅さんは「親を殺そうと包丁を持ち歩いていたこともある」と告げる。結局殺意は自殺未遂に向かったのだが、その経験から「惨事は一時的に何とかしのげば防げます。家族への暴力などに外部の者が介入する仕組みはまだ不十分。当事者や家族の緊急避難場所が必要です」と訴える。また、障がい者福祉施設の無差別殺人事件に言及し、「社会は一人ひとりの集まり。人は変われるから社会も変えられる。心や体に障がいのあることが不幸だと捉える社会を変えたい。精神障がい者も生きる意味を見いだせる社会にしたい」と当事者に寄り添う。さらに「精神疾患を広く知ってもらうのは難しい。当事者や家族が自分の言葉で語ることで理解が進むと思います」とも話した。
医師として「心の病の多くは原因がはっきりしません。患者や家族への説明不足、医師、行政、保健師、精神保健福祉士などの連携不足を感じます。家族会やNPO法人は相談件数や居場所の稼働率など具体的な数字で自分たちの活動を伝え、医師や行政に働きかけてほしい」と励ます。そして、「医師と患者の橋渡しをし、母との問題に向き合ってこなかった贖罪をしたい」と講演活動を続け、受診時の質問促進パンフレット『皆はこんなテーマを話し合っています』を作成したと紹介する。
夏苅さんは「私は自分の素因を持ち味として受け止め、過度なストレスを避けるように工夫しています。当事者を治そうとするより、本人が適応できる環境を整えることも大切です」と話し、「私の回復へのプロセスは忌み嫌っていた母との和解です」と母親が縫ったスーツを着ていると明かした。
終了後、市外の保健所職員だという男性は「夏苅さんは自分に起きたことをちゃんと受け止めていてすごい。当事者同士が支えあう必要性を感じた」と感想を述べた。ロビーではピアサポートげんきの利用者による、精巧な武者紙人形やカードなど手作り品の展示販売がされていた。
問合せ 一ノ宮さん
TEL 080・3010・0357