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鼻歌の交差点
- 2016/5/13
- シティライフ掲載記事, 市原版

文と絵 山口高弘
ピカピカの朝日が窓から差し込んで自然と目が覚めました。カーテンがゆっくりと揺れている。新緑の息吹がやわらかい風に乗り、部屋に薫っています。僕はストレッチをして朝の散歩に出かけました。輝く木々、雲ひとつない完璧に晴れた空。大きく息を吸い込むと、身体の中まで青空になっていくのを感じました。…という夢を見たゴールデンウイーク。しかし現実には布団から起きる気がせず、窓からの青葉の香りに誘われて二度寝、三度寝。夕方頃、やっと枕元でごそごそ本を読み始めます。テレビを点けると渋滞した高速道路の映像が流れて、「ああ、出かけなくて良かった」とつくづく思います。
本を読み終えると次の一冊が欲しくなりました。歩いて買いに行こうか。僕はようやく布団から這い出し、薄暮の住宅地を本屋へ向かって歩き始めました。小さなコウモリが電線と軒下の間を飛び回っています。ドクダミのむっとした匂いがしました。動植物がいきいきと息づいている。つい、鼻歌が出ました。コウモリが歌詞に出てくる夏のヒット曲です。すると、後ろから来た小型バイクが僕と同じ歌を歌って通り過ぎました。気が合うじゃないか!きっと同世代だな。
坂を下りると、この街に来たサーカスの赤いテントが見えます。ワクワクする。僕は、また自然と鼻歌を歌っていました。季節外れの冬の歌。歌の中身?いいや、関係ない。風が美味いんだもの。外で歌を口ずさみたくなる、それが5月です。
交差点の信号が青になりました。若い女性が乗った自転車からすれ違いざまに「愛してるー」と声が聞こえました。彼女も歌っていたのです。ちょっと良い気分になったこの時、僕は、財布を部屋に忘れてきたのを思い出しました。
☆山口高弘 1981年市原生まれ。
小学4年秋~1年半、毎週、千葉日報紙上で父の随筆イラストを担当し、本紙では97年3月イラストを連載。
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