訪れた人の心を癒す風景を守り続ける

石神なの花会

 満開の菜の花畑の中を赤とクリーム色の小湊鐵道の車両が走るのどかな風景を求め、多くの鉄道ファンや写真愛好家が訪れる市原市石神地区板ケ谷崎。養老渓谷駅から上総大久保駅方面へわずか1キロ、県道32号線沿いにある羽雄(はゆう)神社付近の崖の上からはパッチワークのように田んぼの点在する菜の花畑が見える。
 3月初旬、石神なの花畑を案内してくれたのは同地の里山保全活動をするボランティア団体『石神なの花会』会長の金子美智男さん(74)と副会長の佐久間弘三さん(68)。自動車整備工場向かいにある同会の駐車場に車を止め外に出てみると、平日にもかかわらず、まだ蕾の多い菜の花畑にカメラを構える男性が数人いた。金子さんは「田んぼに水を張ると風景が映り、もっときれいになるよ」と気さくに話しかける。東京からバイクで来たという若者は「インターネットで知り、ずっと気になっていた。満開の時期にもう一度来たい」とカメラの位置を確認していた。
「始発の列車を狙って撮りに来る人もいる。太陽の動きにあわせて場所を変え一日中いる。好きだね。私らも菜の花は好きだけど」と金子さんは笑う。毎年、花のシーズンに神奈川県から大型バスで連日やってくる写真同好会もある。春と秋に必ず足を運ぶ都内在住の女性もいる。秋は同会で植えたヒガンバナが目当てだ。金子さんの心に深く残るのは東日本大震災直後に滋賀県と奈良県から訪れた二人の地方公務員。「被災地支援に向かう前にこの風景を見ておきたかった」と話していたそうだ。
 金子さんらが雑草や竹で荒れ放題になっていた田んぼを耕し始めたのは平成21年。同地区は高齢化で働き手がおらず、休耕田が増えていた。「このまま放置しておくとお米が作れなくなる」と危機感を抱き、地権者の承諾を得て菜の花を植えることに。「整備しておけば子どもや孫が米作りをしたくなったとき、すぐ水田に戻せるから」
 有志で手入れを続け、翌年には線路沿いを中心に1.7ヘクタールの休耕田に菜の花が咲いた。平成23年に石神、朝生原地区の有志が集まり、『石神なの花会』を正式に発足。当初18名だった会員は31名に増えた。菜の花畑は2.2ヘクタールに広がり、今や房総の春を代表する名所。嬉しいことに折々の作業には牛久以南の小湊鐵道沿線で里山の整備や美化をするボランティア団体が連携する南市原里山連合が協力し、種まきは市の主催する『花プロジェクト』に参加する市内外のボランティアも手伝う。
 菜の花の見頃は3月中旬から4月下旬まで。6月、花が終わるとまだ実が青いうちにそっと刈り取る。種を飛ばさないためだ。乾かしたあと、昔ながらの機械トウミにかけ、殻と種を分ける。去年、種は80キロ採れた。いままで一番多かったのは120キロ。必要な分を採取してあとは燃やしてしまうが、「全部収穫すれば1トン以上にはなるはず。菜種油を採って地権者にあげたいけど、近隣市町村にも製油所が見当たらない」と残念そうな金子さん。会員の細谷文子さん(87)によると「昔は高滝や大多喜などあちこちに製油所があった」そうだ。
「ホテイ竹は硬くて伐採しづらい」と畦道に迫る竹を見てつぶやく佐久間さん。年数回行う草刈りや耕す作業は大変だが、「育った土地が廃れていくのは見ていられない」。まだ、ところどころにある空き地は種を撒けないでいる。竹を伐採しても、根が腐らないと耕せるようにならないからだ。残った根から生えてくる細い竹を刈りながら、数年待つしかない。
 菜の花畑の奥の鬱蒼と茂る竹林の下は養老川。佐久間さんは「昔は川が見え、よく泳いだ」と懐かしそうに話す。金子さんも「夜中にウナギ目当てにモリで夜突きもした。学校より好きだった」と楽しげに語る。川の向こうの折津地区には地元で「かんかい」と呼ぶある山があり、ヤマザクラが咲く。ソメイヨシノより開花が早い。「満開になると山が真っ白。他では見られない一番いい景色」と頬を緩める金子さん。その表情からは石神の風景が心から好きだという気持ちが伝わってくる。
 同会は地域のみならずより多くの人にかかわってもらえるよう後継者を育て、「ふる里の原点のような里山の風景を守り、訪れた人たちの心を癒したい」と活動を続けている。

問合せ 金子さん
TEL 090・3134・5580


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