CITYLIFE 地域情報紙シティライフ 改修工事を経て公開再開 館山海軍航空隊 赤山地下壕跡 県民の日(6/15)無料公開【館山市】 2025.05.30 館山市宮城の館山海軍航空隊『赤山地下壕跡』は、改修工事を経て4月より一般公開を再開した。2023年8月に壕内天井のモルタルがはがれ落ち、修復と安全確認のため休壕していたものだ。東京湾の入口に位置する館山は東京(江戸)を守る重要な軍事拠点として、幕末から太平洋戦争終戦までの間、様々な軍事施設が置かれていた。館山海軍航空隊は、1930年(昭和5)に開隊。近くに位置した標高60mの赤山の内部に、全国でも最大規模の地下壕が掘られ、太平洋戦争末期には同航空隊の防空壕として使われていた。 貴重な戦争遺産 地下壕入壕の受付は、隣接する豊津ホール。貸し出しのヘルメットをかぶり、懐中電灯を手に、赤山のふもとの入口から足を踏み入れる。アリの巣のように張り巡らされた地下壕の全長は、わかっているだけで約1・6㎞。2階、3階へと続くスロープもあり、全貌は明らかになっていない。資料はほとんど残っていないが、地下壕は昭和10年代はじめに建設が始まったとの証言がある。 市教育委員会生涯学習課の学芸員・水島史乃さんは、「壕内の設備は、軍の撤収の際にすべて持ち去られていて残っていませんでした。通信施設のケーブルを通した穴や棚を打ち付けた跡などが当時の名残として見られます」と説明する。見学コースでは、『自力発電所跡』や『応急治療所跡』、電話番が腰かけていたという壁のクボミなどを見て回ることができる。電話は壕内に1000台あったとの証言があるそうだ。壁には1カ所、朱文字で『USA』と書かれた箇所があり、1945(昭20)年9月3日に館山に上陸した米占領軍が残したものと推測されている。今回のモルタルの落下で分かったことが1つ。入口付近のモルタルは金網だけで補強されていたが、少し奥まっている落下箇所のモルタルは、30㎝間隔の金網のすき間を埋めるように、5㎝間隔で竹網が入っていた。戦時下の鋼材不足で、竹が代用されたと考えられる。 壕内では、壁に現れる地層も見どころの1つだ。凝灰岩質の砂岩や泥岩などやわらかい地層が積み重なり、断層を見られる箇所もある。また昭和30年代より、壕内の安定した気温を利用したキノコ栽培が行われていた。キノコの研究者が使用していた風呂釜やブロックが今でも残っている。 旧館山海軍航空隊正門と本部庁舎(昭和10年) 平和学習の拠点として 赤山地下壕跡は2004年から公開され、翌年には館山市指定史跡に指定された。戦後忘れられていた赤山地下壕の存在が認知され、公開されるまでの道のりは、ひとりの高校教師が1989年に開始した草の根の調査活動に端を発する。北海道出身で、当時県立高校で世界史を教えていた愛沢伸雄さんは、館山の戦争遺跡を地域教材として授業に活用し、その後公民館の郷土史講座の『戦跡フィールドワーク』、市民による『戦跡調査保存サークル』などと活動をつなげていった。15年にわたる市民の保存運動を受け、館山市は平和学習の拠点として赤山地下壕跡を整備。地下壕の公開と同時に、愛沢さんはスタディーツアーガイドを行う『NPO法人安房文化遺産フォーラム』を立ち上げた。毎月第1日曜の9時半から、個人や小グループを対象にガイドサービスを行っている。県民の日は入壕料が無料で、同時刻にガイドサービスが行われる。また団体ガイドには戦争遺跡や文化遺産をめぐるスタディーツアーがあり、有料で事前予約が必要。詳しくは同NPOへ問合せか、QRコードよりHP参照を。 くぼみや地層が見られる地下壕内 地下壕の公開再開に併せ、豊津ホール内に展示コーナーが開設された。写真やパネルで、市内の戦争遺跡や当時の館山海軍航空隊の様子などを紹介している。落下した天井のモルタルの一部も展示され、使われた竹網も間近に見られる。また、赤山地下壕跡より歩いて10分ほどの所に掩体壕(えんたいごう)がある。掩体壕は主に戦闘機(零戦)を敵機から隠すための格納庫だ。地下壕跡パンフレットに周辺地図もあり、同駐車場に車をとめて見学が可能(私有地のためマナーに注意)。静岡から訪れた夫妻は、「地下壕の中は広くて、いろいろな機能を持ったスペースがあって、びっくりしました。これから掩体壕まで歩いて見に行きます」と話していた。 学芸員の水島さんは、「戦後80年の節目の年に、戦争を身近に感じていただけるよう多くの方に来て欲しい。戦争体験者が少なくなった今、遺跡から学んでいただけたら」。生涯学習課文化財係の前田裕さんは、「実際に遺跡を目にして、戦争を感じて、平和をもう1度噛みしめていただけたら地下壕跡を整備した意義が出る。今後とも戦争遺跡の保存に努めていきたい」と語る。 壕内は涼しいので1枚羽織るものがあると安心。開壕は9時半~16時(受付15時半まで)。毎月第3火曜と年末年始が休壕。一般200円、小中高生100円。20名以上の団体は事前予約要。詳しくは問合せを。 問合せ:豊津ホール(赤山地下壕跡受付) 館山市宮城192の2 Tel.0470・24・1911(FAX同) 問合せ:NPO法人安房文化遺産フォーラム(ガイド)共同代表・池田さん Tel.090・6479・3498 HP:http://bunka-isan.awa.jp/ 地下壕跡より徒歩で行ける宮城掩体壕 地下壕跡入口で、文化財係・前田さん(左)と学芸員・水島さん