物作りを取り入れることで、日常はもっと面白くなる ~陶芸家 外山 慧(そとやま・けい) さん~【市原市】

 市原市出身の陶芸家である外山慧さんは、2021年春から市原市米沢にある森で小さな作品たちを生み出し続けている。一緒に活動している『イドクボンガ』のメンバーは約10人。野焼きでの陶器制作の他、森林や空き家などの保護にも尽力中だ。「『ンガ』というのは、市原の田舎言葉で『~さんの家』という意味。つまり、僕たちは『イドクボさんの家』で陶器を焼いたり、木を切ったり、カレーや焼き芋を食べて集っているんです」と話す外山さんは、「野焼きにかかる時間は約8時間。2~3カ月に一度行う際には、朝から夕方までかかる。庭の正面には4千年近く前の古墳があって、僕たちのやっていることもきっと未来の人にとっては遺跡の一部になると感じる」と続けた。未来に想いを馳せる、そんな外山さんはこれまでどのような軌跡を辿ってきたのだろうか。

迷わなかった進路

「子どもの頃は野山を駆け回り、秘密基地を作っては友達と木の実を食べるような、自然大好きのマイペースな性格だった。小学生の時は、休み時間に絵を描いていると周囲に自然と人が集まってきた」と話す、外山さん。市立有秋中学校卒業後は、地元の県立京葉高校へ進学した。「勉強は苦手だったけど、美術の成績はいつも『5』。高校卒業後の進路に迷うことはなかった」と話すが、東京芸術大学を目指すも2浪。「予備校の試験課題で石膏デッサンがあって、初めて競争心が湧いたかも。とことん自分を追い込んで、合格。大学生活は充実の一言。初めは彫金作家を志していたけど、2年の専攻時に陶芸を選んだ」という。「陶芸は、縄文土器など一万年以上前から行われていた原始的な技法。時間の経過と共に失われてしまうものがほとんどなのに、陶器は時代を超えるという事実に心が惹かれたのかも」と、話すロマンチストだ。だが、「学生の時は、その陶芸さえも生きていくための一つの手段としか捉えていなかった」と、語る。
 大学院生の時に結婚し子供が生まれると、進む道に迷った時もあった。だが、その時に背中を押してくれたのは家族だった。「学校を辞めて働こうとした僕に、義母がちゃんと勉強するように言ってくれたんです。結果、予備校の講師をしながら院生を続けられた。父が、首が回らなくなったら連絡しろと言ってくれたことも精神的な支えになった」とか。そして、「カウンセリングに近い手法で扱われるなど、陶芸が社会の中で必要とされていることに気づき、今は『陶芸』に誇りを持っている」と続けた。
 その後、自身の作品を制作し続けながら、千葉駅そばに『千葉陶芸工房』を設立。7年が経ち、3児のパパにもなった。教室や体験の生徒に陶芸を教えつつ、いちはらアート×ミックスなど多くのイベントにも精力的に参加している。「高滝にある湖畔美術館の庭でテントを張って、陶芸体験や生徒の作品を販売したのは貴重な経験だった。4歳から80代まで年代問わず楽しんでくれるのも嬉しい」と話す外山さんが生徒に求めるのは、「自ら作りたい作品を発信し、みんなが小さな作家である」こと。今までに4人の生徒が、教室をきっかけに陶芸家の道を歩んでいるというから驚きだ。

枠を超えた進化

イドクボンガの作品

 制作した作品は、普段工房の電気窯で焼くことが常。『イドクボンガ』の野焼きとは何が違うのだろう。外山さんは、「窯で焼くのと大きく違う点は、温度。通常は1200度で釉薬が溶けて色に変化が出ます。野焼きの特性は温度が900度までしか上がらず、そここそ土が変化するタイミングで魅力が最大限に出せる」と説明する。器など作品に用いる土は、あちこちの山へ足を運び、自ら調達する。さらに、「米沢の森は少し砂っぽく、焼き色が付きにくい。一番合うのは、今のところ南房総の知り合いの土地の土ですね」と笑って見せる作品は、確かに一つ一つ色の濃淡が異なり、また自然に入ったヒビもどこか繊細だ。焼いてみたら作品が割れる時もある。しかし、それも味。「うまくやるのが目的ではない。本質は決して物そのものにあるのではなく、まつわる人の営みに含まれるから。コミュニケーションをとる手段ともいえるし、それは小学生の休み時間に絵を描いていた僕の原点でもあるのかな」と、話す。
 外山さんは、「仲間数人と、工房のブランド『手と具』の準備中。道具や家具は常に手で触れられるもの。より素材を楽しみ、日常で『作る』を味わってもらうことを目指していて、出張講師やオーダー制作も可能です。野焼きの作品に力も入れていきたいので、不要な耐火煉瓦を募集中です」と、今後の制作にも意欲を見せた。
Tel.043・301・4606
mail:mail@c-tougei.com

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