- Home
- 市原版, シティライフ掲載記事
- 地域おこしと里山保全 開かれたお寺の役割を~瓦谷山・真光寺~【袖ケ浦市】
地域おこしと里山保全 開かれたお寺の役割を~瓦谷山・真光寺~【袖ケ浦市】
- 2024/10/10
- 市原版, シティライフ掲載記事
- 内房
【写真】真光寺仏殿(左)。右側は薬師堂が建つ前、本尊を安置していた書院
市原市との市境にある緑豊かな里山、袖ケ浦市川原井地区。集落の中を走る県道143号線から横道に入ると、木々と四季の花が植栽された斜面が目に入る。コンクリートで打たれた急な坂道を登れば、小高い山の上は開け、手入れされた森や花壇、畑、そして回廊を備えた立派な伽藍が建つ。瓦谷(がこく)山・真光寺。開山1556年の曹洞宗のお寺だ。
30年かけて豊かな緑の寺に
現在の住職・岡本和幸さんは23代目。30年前の平成6年、岡本さんが入山したときは、先代住職が長年この地を離れており、寺はひどく荒れていた。「地元の皆さんが敷地の草刈りや掃除など、定期的に管理していただいてましたが、山のふもとの元本堂は老朽化。床に穴が開くなど傷みがひどく、何とかしなければ、と思いましたね」。寺の敷地の山も竹がはびこり、鬱蒼としていた。これをもとの豊かな森の山に戻そう、と決意した岡本さんは、寺と山の整備を始める。
本来、山は薪を取る場所で、山と木々を守ることはとても大事だった。現代はまったく需要がなく、手入れされなくなった山は野生のイノシシ、シカ、キョンなどの生息地になり、集落近くまで出没、作物などに被害が出てしまう。「常に人の手が入っているところに動物たちは来ない。そしてお寺は人の集まる所。人口の少ない過疎地だからこそ、地域の誇りとなるように、来た人が楽しんで癒やされる場所にしたかったんです」
ここで岡本さんは自身の技術をフル活用する。檀家から廃材などを譲り受け、DIYで修復。半年かけて住める状態にし、近所の人の協力を得て、数人で竹と木を切り、重機も操縦して山を開墾した。仮の本堂に本尊を安置し、山の木々を育てる樹木葬の墓地を作ろうと、再び檀家から不要の庭木などをもらい、徐々に植えていった。そして本堂などの伽藍の建設に着手。寺社は柱や梁など大木の丸太を使うが、90%以上を複数の板を結合させた集成材にし、古材も活かした。
「建物は新しいですが、仏像や仏具、須弥壇の彫刻などは、廃寺からいただいたり、ネットオークションで買ったりして揃えたもの。須弥壇など、自分でできるところはすべて手作りしました」。念願の薬師堂を建て、伽藍がすべて整ったのは、一昨年のこと。薬師像を安置する、岡本さん製作の須弥壇が完成したのは今年の春。樹木葬の墓地は1期~5期と、数年ごとに整えており、最初に整備した場所は木が大きく育ち、園庭の森のようになっている。墓地の周りをめぐるアジサイ5000本が植えられた散策路も、入山する登り坂も、伽藍の周囲を歩く道も、伽藍の中にある大きな池も、すべて岡本さんが整備してきた。「今では住職というより植木屋です。木々や花の世話で忙しい」と言うほど、寺山は四季折々、美しい植物たちで彩られる。
地域の宝を掘り起こす
岡本さんの活動は寺の整備だけではない。スタッフとともに地域の里山保全にも力を入れている。「周囲の田畑が荒れ、産業残土などが運び込まれていた現状に、せっかくの貴重な自然を絶やしてはと、農業や森の観察など自然体験できる『上総自然学校』を運営してきました」。寺から約2・5キロ、水田だった荒れ地を平成16年から開墾。米作り体験ができるよう整備した。
さらに寺の敷地内にかつて里見氏の城跡の一部があったことから、市の教育委員会・観光協会と協力し『御城印』も発行。城跡の山と真光寺敷地に、計600本の桜を植樹。地域の人たちにお寺を利用してもらいたいと、座禅、写経、精進料理と聖典講読の会、囲碁、ヨガ、仏像彫刻教室なども開催している。「せっかく建物があるので、どんどん使っていただければと、仏像彫刻など教室の場所にお貸ししています」という。自然学校は土地整備のため、来年度から活動を休止するが、多くの家族連れで賑わった田での無農薬・有機栽培の米は今年も収獲できた。「お寺は昔からありましたが、手入れをしなければ結局は廃寺になってしまう。自然も私たちの生活も『あって当たり前』『当然』のものではなく、努力して関わり、維持してきたからこその『ありがたい』もの。埋もれているものでも価値がある。それを掘り起こす30年かけての戦いでしたね」
本を通じた教育関連の国際ボランティア団体の専務理事も務めて8年。野良猫を飼い、世話もしている。副住職は地域の消防団の分団長。「もともと365日、休みなく地域に開かれ、地域のために何でもやる所がお寺です。役に立つ場所でありたいですし、今後も手が届く範囲ですが、里山保全などのためにお寺を活用していきます」と岡本さんは話した。
問合せ:真光寺
袖ケ浦市川原井634
Tel.0438・75・7414
・行事等の詳細はHPにて