中村哲医師ドキュメンタリー映画『荒野に希望の灯をともす』上映会~ちはら台コミュニティセンター~【市原市】

【写真】人々に語りかける中村医師 写真提供:PMS(平和医療団・日本)

 

 昨年11月25日、ちはら台コミュニティセンター(市原市ちはら台南)にて、アフガニスタンとパキスタンで病や貧困に苦しむ人々に寄り添い続けた医師・中村哲さんのドキュメンタリー映画『荒野に希望の灯をともす』の鑑賞会が開催された。映画上映後、アフガニスタンで中村医師と共に活動した『ペシャワール会小川』の石橋忠明さんが現地の活動状況などを講演した。同上映会を主催した『NPO法人ちはら台コミュニティセンター運営協議会(理事長・東利幸)』は、「私共ボランティアの運営委員にも気づきの糧となればと研修の一環として企画しました。貴重な機会を得て一般の方々にも公開させていただきました」と話す。同協議会からは寄付金が石橋さんに手渡された。

中村医師の活動とペシャワール会

マルワリード用水路。両岸に水辺に強い柳が植樹されている。写真提供:PMS(平和医療団・日本)

 中村哲医師は、194 6年福岡県福岡市生まれ。九州大学医学部を卒業。1984年、パキスタン・カイバルパクトュンクワ州の州都ペシャワールに赴任し、ハンセン病の診療やアフガン難民、貧困層の診療活動に従事した。アフガニスタン東部へも広げた医療支援が順調に進んでいた2000年、アフガニスタンは大干ばつに見舞われる。人々は飢えと渇きで命を落とし、農業は壊滅、医療で人々を支えるのは限界という事態となる。

 中村医師は清潔な水を得るため井戸を掘り、2003年3月にはマルワリード用水路の建設に着手した。マルワリードとは現地の言葉で『真珠』を意味する。2001年の米国同時多発テロ後の米軍侵攻により爆撃が毎日繰り返される中、命がけの作業が続けられた。水量豊富なクナール川から水を引き、2010年3月、最終地点ガンベリ砂漠まで、貯水池13カ所を備えた全長25㎞(現27㎞)が開通。2万3800㏊の耕地が水で潤い、65万人の農民の生活を支えている。

講演中の石橋さん

 映画の中では、20年以上に渡り撮影された豊富な映像と中村医師の紡ぐ言葉の1つ1つが鑑賞者の胸に迫る。2019年12月4日、中村医師はアフガニスタン東部で武装集団に襲われ、銃撃により殺害される。享年73才。その訃報に世界中の多くの人が涙を流した。

 ペシャワール会は、1983年9月に中村医師のパキスタンでの医療活動を支援する目的で福岡市内で結成された。現在は中村医師が設立したPMS(平和医療団・日本)のアフガニスタンでの医療活動や灌漑(かんがい)事業などで農村復興を支援している。中村医師の死後、『中村先生の事業は全て継続し、中村先生の希望は全て引き継ぐ』との理念で活動を続けている。

継続した支援を

H地区通水前のスランプ―ル平野 写真提供:PMS(平和医療団・日本)

 石橋忠明さんは、埼玉県比企郡小川町で会社を経営。2001年に勃発したアフガニスタン戦争を機に手に取った中村医師の著書『医者 井戸を掘る』(石風社)の文章に深く感銘を受け、医師に手紙を書いた。その後ショベルカーの免許を取得し、2003年11月、「『ペシャワールにて』という著書をお送りいただいたので、名刺にあるペシャワール病院を訪ねました」。2010年に治安の悪化により中村医師以外の日本人スタッフが引き上げるまで、石橋さんは2~3カ月おきに日本とアフガニスタンを行き来し、中村医師たちと共に用水路建設に汗を流した。現在はペシャワール会の会計を担当し、講演会やパネル展示など広報活動にも注力する。

 講演では市内の小学6年生が、「中村先生は人に対してどんな人でしたか」と質問をした。夏休みの課題図書『大地をうるおし平和につくした医師 中村哲物語』(汐文社)を読み、興味を持ったのだという。石橋さんは、中村医師との思い出を語った。「口の中にはれものができて、私が日本に帰りたいと言った時、先生が診てくれた。『針でちくっとするよ』と言った顔はやさしそうで、こんなにやさしい人だったのかとその時改めて思った。あたたかみのある人でした。自分の事を考えず、人の事ばかりをいつも考えている人でした」。映画を鑑賞したちはら台在住の女性は、「中村先生の功績をこんなに深く知りませんでした。困難が続いてもくじけない意志の強い方だと感動しました。亡くなられたのが残念です。この映画はもっといろんな人に観てほしい」と話した。

H地区通水から3年後のスランプ―ル平野 写真提供:PMS(平和医療団・日本)

 石橋さんは、「干ばつ地帯では乾燥していてもできる大麻の原料のケシ栽培が行われ、武装勢力がはびこる要因となる。食と職の無い若者もリクルートされ更に助長される。大地の緑地化で農民たちの帰農を促進したい。中村先生亡き後、皆で少しずつ身を削って、一人ひとりが『自分のできること』をやって大河となりましょう。現在も10数本の用水路を造成・改修中で、まだまだ沢山の支援(技術・資金・広報など)が必要です」と訴える。ペシャワール会は、会員の会費や寄付によって運営されている。年会費は、一般会員3千円~、学生会員千円~など。『ペシャワール会報』の現地活動報告をまとめた新刊『中村哲 思索と行動』上巻(忘羊社)を発売中。その他中村医師の著書多数。詳しくはホームページか、問合せを。

 

問合せ:ペシャワール会事務局

Tel.092・731・2372

http://www.peshawar-pms.com

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