いすみの里山に瓦屋根の民間図書館 本が編む人と人との物語~星空の小さな図書館~【いすみ市】

 3つの窓が並ぶカウンターはケヤキの一枚板。絵本コーナーは小上がりになっていて、壁際の本棚の横には籐の椅子。マンガが並ぶ2階の屋根裏へは細長いはしごがかかっている。ここはいすみ市能実の里山にある民間の図書館『星空の小さな図書館』。蔵書はほとんどが寄贈されたもので、ベストセラーの小説から、絵本や雑誌、アートや衣食住に関わる本など約2千冊が揃う。日曜と月曜の午後、週2回の開館日には地元の人々とあわせて、旅の途中に立ち寄る人もいる。読書好きの心をくすぐるこの場所で、今日はどんな本を読もう。

図書館のはじまり

三星さん。図書館の玄関前にて

 星空の小さな図書館は株式会社スターレットの運営で、代表の三星千絵さんが旧家の納屋を改修し図書館を開館したもの。まもなく10周年を迎える。

 三星さんは袖ケ浦市の出身。大学卒業後都内でせわしない会社員生活を送る中で、「季節の移り変わりを肌で感じたい」と地方移住を考え始めた。その頃、雑誌に特集されたいすみ鉄道に乗ったことがきっかけで、いすみの風景の『のどかさ』に心惹かれる。いすみ市に相談に訪れると、新しい事に挑戦し楽しそうにしている移住者が沢山いたことから、2011年には移住を決意した。移住後、立派な古民家が賃貸に出されるということを聞き、シェアハウスの開設を思いつく。以前、友人の住むシェアハウスを訪ね、友人が友人を呼び知り合いが増えていく様子が印象深かったからだ。2012年6月、古民家を借りてシェアハウス『星空の家』を始めた。

 当初シェアハウスが近隣の人々に馴染みのないものだったことから、地域から身近に感じてもらえる場所、子どもからお年寄りまで立ち寄れるわかりやすい場所をつくりたいと、さまざまな人と話し合った。そして出した答えが図書館だった。2014年2月に離れの納屋の改修を始め、予算に合わせ壁塗りなどは友人らの力を借り、本棚やテーブルも母屋にあったものや友人が持ってきてくれたものを使用した。オープンは12月。「近所のおじいちゃんがオープン祝いにと読まなくなった本を持ってきてくれました。考えもしなかったけど、うれしかった」。地域とのつながりに心を砕いていた三星さんには胸にしみる出来事だった。

い鉄ブックス

大原ブックパーク

 図書館の存在が地域に根付いていくにつれ、寄せられる本の数も増えていった。それらの本を図書館だけでなくいすみ鉄道と地域のために活用しようと、2020年から事業として『い鉄ブックス』を展開している。寄贈された本をインターネットや古本市で販売し、得られた収益で、寄贈者への返礼品としていすみ鉄道の公式グッズの購入や、沿線地域の活性化に役立てられている。JR大原駅近くでほぼ毎月開催していた『大原古本市』をリニューアルし、美味しいものや本にまつわる雑貨の店も並ぶ『大原ブックパーク』で、にぎやかな本と人との出会いの場をつくっている。全国のいすみ鉄道ファンからも寄贈本が送られ、この5年程で扱った本の数は優に6万冊を超える。福島在住の男性からは、「祖父母の家がいすみで、小さい頃いすみ鉄道によく乗っていた。いすみ鉄道と地域に貢献できるなら」と本にメッセージが添えられていた。

「本によって生かされる場所が違う」と三星さん。「開館当初は本を棚に並べるということをひたすらしていました。何年も手に取られることのなかった専門書がネットであっという間に売れたことがあり、本にも個性があって、必要としている人に届けることができて初めて生かされる。い鉄ブックスによりそれぞれの本が生かされる機会が広がったと実感しています。図書館に毎週のように通ってくださる常連さんにも本の選択肢が増えてよかったと思っています」

10年の歩み

屋根裏のマンガコーナー

 星空の小さな図書館に10年の年月が流れ、「オープンの時に生まれた子どもがもう小学3年生」だったり、「いつも文庫本を借りていた人が絵本を?と思ったらお孫さんが誕生」していたり、訪れる人たちにも同じ年月が流れた。三星さんは「ここは日常に当り前にあればいいと思っていて、ふと思い出した時に立ち寄ってくれればいい。そういう場所であれたら」と穏やかに微笑む。

 ある夏、自由研究で図書館について調べるため訪れた子どもとその父親が、翌年、賞を受賞したと報告に来てくれたことがあった。資格試験や入学試験の受験勉強で利用していた人が、合格の報告に来てくれたり、大学生になって遊びに来てくれたりということもある。「変わらない場所であるために、本を入れ替え変わっていく。5年10年とこれからも続けていきたい。ぜひ新しい本との出会いを楽しんでほしい」と語る三星さん。本好きのための灯台のように、明かりをともし続けている。

 図書館は入場無料、出入自由。本の貸し出しは、1度に5冊を目安に期間は1カ月ほど。本の寄贈は事前申込みの上、図書館開館日にのみ、持ち込みか宅配便の日時指定にて。詳しくはホームぺージか、問合せを。

 

問合せ:星空の小さな図書館

いすみ市能実969

Tel.0470・64・6503

開館:日曜・月曜 13時~19時(12月・1月は18時まで、2月休館)

HP:https://hoshizora-library.starlet.link/

 

・大原ブックパーク

11/2(土) 10時~15時 雨天中止

レンタルスペースNARUSE(いすみ市大原8754の1)

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