ブラサガリン坊

遠山あき

 小湊鉄道里見駅へ入ろうとする場所の約百メートル程手前へくると、私は立ち上がって外を見る。もうすっかり落葉して裸になったエノキの大木が構内に何本もあって、その枝の分かれ目から、なんとも可愛らしい黒いボールがコロンポロンとぶらさがっているのである。風の強い日には、そのボールが右に左に揺れて追いかけっこをしているように騒いでいる。小さいのは直径十センチほど、大きいのは径五十センチはあろうか。一本に大小あわせて十個も十五もついている。雨の日は濡れてショボンと下がって、ほんとに可愛い。私は勝手に「ブラサガリン坊」と呼んで楽しみに眺めている。不思議にこの坊やはエノキにしか付かない。ほかにもエノキは沢山あるのに、この里見駅の樹に限ってぶら下がっている。ボールは黒色と思っていたら、よく見ると藍色を帯びた、くすんだ緑であった。
 ある日孫の車に乗って通った時、「ア、早く見て見て!」と叫んだ。「アラ、ヤドリギね」と孫は言った。「まあ、これってそういうの?」「そうよ」
 それで、車を止めて詳しく見ることにした。ヤドリギの学名は知っている。種類の違う他の植物に寄生する植物だ。でもこの坊やがヤドリギの種類だったとは。エノキの下で一番近い坊やへ棒を伸ばして、一枝折り取った。なんと!肉厚の二枚葉が密集してついている。この葉が集まってボールを形造っていたのだ。ふーん、私はしみじみとその枝を見つめた。二枚葉の元に半透明の黄色っぽい実が二個、愛らしく重なってついている。マア、坊やに実があったとは! ぷよぷよしている実を潰してみた。ねばる。糸を引く。指先にくっつく。ア!分かった。この実を見つけた小鳥がついばむ。小鳥は飛び立って離れた所へ糞をする。図らずも種を運んでくれるのだ。ネバネバするから、糞はタラーリと樹の枝に粘りついて其処に種を下ろす。しめた!種はその樹皮を破って食い込む。自分の力で土中から栄養を吸い上げなくても親樹のエノキが養分を吸ってくれる。自分はコロンポロンと遊んでいればよい、寄生植物である。
 ああ、あの可愛い坊やが誠に要領のよい横着者だったとは……。でも、やっぱりこの坊や、可愛いけど。


Warning: Attempt to read property "show_author" on bool in /home/clshop/cl-shop.com/public_html/wp-content/themes/opinion_190122/single.php on line 84

関連記事

今週の地域情報紙シティライフ


今週のシティライフ掲載記事

  1. 当ホームページは、2/17に新ホームページのオープン予定のため、情報掲載が1/31までとなります。 2/17までに開催するイベント等…
  2.  昭和を代表するスター「石原裕次郎」は今年、生誕90年。映画やドラマで大活躍し、歌手としてもヒット曲多数。誰からも愛された「裕ちゃん」の魅…
  3.  鉄道写真愛好家の皆さんへお知らせです。今年6月5日(木)~6月10日(火)に開催予定の『小湊鐵道を撮る仲間たち展』に写真を出展いただける…
  4.  今年は小湊鐵道開業100周年。これを記念し、アートによる地域づくりの拠点である市原湖畔美術館は、小湊鐵道とコラボプロジェクトを進行中。小…
  5.  成田山公園で毎年行われる冬のイベント「成田の梅まつり」。会場は成田山新勝寺大本堂の奥、16万5000平方メートルもの広大な公園。四季折々…
  6. 【写真】パキスタン・カラチの整備途中の農場で、働く青年たちと田中さん(前列右端)      36年間の市議会議員のあと、パキス…
  7.     ◆一席 記念日を遅れて祝い根にもたれ  一宮町 黒猫胡桃     ・老プランあまく見積り火の車  茂原市 道譯賢…
  8. 【写真】講演する家田さん      昨年12月、市原市市民会館で開催された『令和6年度市原市人権・男女共同参画フォーラム』。男…
  9. 【写真】はにわ博物館展示室の姫塚埴輪        昨年8月、千葉県殿塚古墳・姫塚古墳出土埴輪(総数48点うち殿塚古墳30点、…
  10. シティライフ編集室では、公式Instagramを開設しています。 千葉県内、市原、茂原、東金、長生、夷隅等、中房総エリアを中心に長年地域に…

ピックアップ記事

  1. 当ホームページは、2/17に新ホームページのオープン予定のため、情報掲載が1/31までとなります。 2/17までに開催するイベント等…

スタッフブログ

ページ上部へ戻る