唯一の女子部員、チャンピオンになる

唯一の女子部員、チャンピオンになる
全日本アマチュアボクシング選手権2連覇
小倉 真由美さん

「ボクシングは他のスポーツにはない達成感がある。普段は自分を鍛錬し、試合では冷静さを失わずに相手と戦う。身体も精神も鍛えられるし、努力しただけの結果が得られる」とさわやかな笑顔で話したのは小倉真由美さん(市原市松ヶ島出身、18歳)。拓殖大学紅稜高校在学中に第10回と第11回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会のライトウェルター級(体重60キロから64キロ)で2連覇を果たした。
 小倉さんがボクシングをはじめたのは高校に入学してから。たまたま見学したボクシング部の迫力に圧倒され「格闘技で自分の殻を破りたい」と入部した。女子はたった一人。ジムワークもランニングも「少ない回数でいい」と言われたが、男子より時間がかかっても苦しくても同じメニューをこなした。急に激しい運動をしたためか、骨盤を疲労骨折したのは1年生の夏休み。それでも挑戦しただけ強くなれると過酷な練習に耐えた。2年生の夏にスランプになり、女子の試合数が少ないことや、殴り合うことに疑問が出てきて1カ月休んだことがある。けれども「怒られたら辞めよう」と覚悟をして出た部活で、「みんな心配していた」と顧問や男子部員から温かい言葉をかけられ胸がいっぱいになったという。「ここに自分の居場所があった」と再びリングに戻り、汗とグローブの匂いのする部室に出入りした。その後も手首を骨折したり、鼓膜が破れたりしたが、部活の仲間がいたから乗り越えられた。
 高校2年生の2月、初出場となった広島で開催された第10回大会決勝はかなり緊張した。試合前日は体重オーバー。動揺していると「一晩寝れば400グラム、半身浴で400グラム減る」と関係者が教えてくれたので実行したうえ、翌朝の計量をパスするため夕食をほとんど食べずに減量した。対戦相手は前年度チャンピオン。試合は3ラウンドまで「ガチガチになったまま」ポイントを失った。最終の4ラウンド目、頑張った2年間を無駄にしたくないと開き直って戦うと、わずかな点差で勝てた。「練習相手が男子ばかりなので、女子は怖くない」という小倉さんも、3年生の12月に山形で行われた第11回大会の対戦相手は初めて恐いと感じた選手だった。練習会のときに過呼吸になるほど打たれまくられたからだ。そこで事前に相手を研究し、効果的なパンチを出す練習を積み重ね万全を尽くし大会へ。試合前日は焼肉を食べエネルギーを貯え、本番前もリラックス。作戦通り積極的に出て2ラウンド目にスタンディングダウンを2回出し、応援にきた母と姉の前で再び勝利した。
 小倉さんの生きる支えは家族。母子家庭の末っ子で90歳になる祖母をはじめ家族みんなに「甘えさせてもらった」。子どもの頃は10歳近く年の離れた兄と姉のあとを追い、なんでも同じことをした。クリスマスに兄と姉が欲しかったゲーム機を買ってくれたこともある。運動神経は抜群で、小学校では男子の先頭に立ってサッカーで遊び、中学に入るとバスケットボール部で活躍。陸上大会では砲丸投げで市原市の新記録を出した。ところが、男子と対等に遊ぶ活発でさっぱりとした性格が災いして一部の同級生からは反発を買うことに。美容師の母親がこまめに整えるショートヘアをからかわれたこともある。学校を休むほど弱気にもなった。今は「自分の態度も悪かった」と周りへの気遣いができるほど成長したが、「当時はいつも母が味方してくれ救われた」という。家計を助けたいとアルバイトをはじめようとした高校生の小倉さんに部活を薦めたのも母親だった。
 大学に進学する時、憧れの女子ボクサーが通う大学から数回のアプローチがあった。けれども、中学時代の経験から生徒に親身になって向き合える教師になりたいと、今年4月、ボクシングを離れ東京女子体育大学に入学。親元を出て寮生活を始めた。大学の友人たちは自分と同じように活動的でノリがよく、気を遣わずに付き合える。でもボクシングに惹かれる気持ちは抑えられず、一度入った野球部を6月に退部してボクシングジムに通いはじめた。女子ボクシングがオリンピックの正式種目に決定したのは小倉さんが高校に入学した前の年。「オリンピックを目指せ」との周囲の声もあるが「今はまず大会3連覇を目指したい」ときっぱり。「リングの上で勝敗を決するレフェリーが自分の手を挙げる瞬間が最高」とのこと。

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