房総往来
- 2013/7/12
- 市原版
房総往来
山里 吾郎
まだ新緑がまぶしかった5月に鴨川市を訪れる機会があった。風光明媚で知られる房州の中でも陽光の輝きがひときわ強く、常に再訪を渇望させる地の一つ。古今、海の青、山の緑に魅せられた文人墨客も多い▼早朝の出発。館山道の進展で市原からもさほど遠くなく、目的だった旧友との再会は日暮れには終了。「せっかくここまで来て美味い魚を食わない手はないか」と日帰りの予定を変更して前から気になっていたすし屋ののれんをくぐった▼6時前というのに店内はぎっしり。かろうじて空いていたカウンターに座り、「おまかせ」で次々と出てくる大将の解説付き地魚に舌つづみ。美味い魚には付き物と、左党の勝手な思考で冷酒も注文した▼お店の紹介で運転代行付きの素泊まりホテルを先に予約しており、すっかり腰を落ち着けての酒食。帰り際、大将の「加藤さんが下りてくるよ」の声に振り向くと、階段から笑顔を見せたのは歌手の加藤登紀子さん。団塊の世代にとっては特別な存在でもあるマドンナとの遭遇といううれしい付録も付いてきた▼二日酔いもなく、すっきり目覚めた翌朝、嶺岡山系の一角にあるホテルの周辺を散策。頂上らしきところに「魚見塚展望台」の碑が。「かつて漁師たちが沖合に来る魚の群れを見張っていた」。上からの眺望はまさに雄大、青い海に半島や大小の島々の美しい緑が映える。白い波間、素人の目ではさすがに魚の群れまでは見つけられないが、昨夜の地魚もこの海の幸がもたらしたかけがえのない産物か—思わず納得顔になった。