美しき人形の世界

 紫がかった空間の中、木馬の上に座る、どこか楽しげな人形の女の子。きちんと整理されたアトリエに置かれた大きなキャンバスは、まるでメルヘンな人形の世界への入り口のようだ。「アトリエっぽくないでしょ。片付いていないと落ち着かないのよ」と笑顔で話すのは市原市在住の片岡佐智子さん(68)。昨年行われた第58回二科千葉支部展で並樹画廊賞、第98回二科展で会友賞を受賞した。
 片岡さんは、ビスク・ドールと呼ばれる人形をモデルに自身の想像力を織り交ぜて、背景の空気感に独特の動きとリズムを持つ油絵を描く。やさしく落ち着いた夢のような雰囲気は見る者をうっとりさせる。ビスク・ドールとは、もともと頭部や手の部分を二度焼きした磁器製の人形のこと。19世紀にヨーロッパの貴婦人たちの間で流行した。
 30年前、子育てが一段落したと同時に趣味で絵画教室へ通い始めた。「最初のモデルが人形でした。可愛くて、無心で描きました。私の原点なので大切にしたい」と話す作品は、現在とは異なる、ややラフなタッチで描かれた、あどけない表情をした人形の絵だ。
 小さい頃から母の手作りの人形が大好きだった。父のシャツを肌色に染め、中に綿を入れて作ったふっくらした顔、毛糸の髪の毛の大きな抱き人形でよく遊んだそうだ。
「人形は、とても不思議な世界を私に与えてくれます。永遠の命を与えられたものだけが持つ次元を超えた魅力に満ちています」人形と心を通わせ、イメージを膨らませて絵画にする。「自分らしい作品を描きたいと考えるのだけれど、結局、心の感じるままに描いている絵そのものが自分の心の投影なのですよね」と笑う。
 7月の初めに都内の『並樹画廊』で『片岡佐智子展「ドールに魅せられて」』を開き、100号の大作から0号までの23点を披露した。「絵が好きな人や人形が好きな人、たくさんの方が足を運んで下さいました。辺り一面人形の世界を楽しんでもらえたと思います」
「今までは紫がかった色調の絵が多かったですが、これからは黒と白のモノトーンの色調や違った色彩にも挑戦してみたい。人形の数を増やしたり、これまでと違った小物や風景との組み合わせを考えたり、パターンを変えて描いてみたい」と新たな作品への意欲を語った。
 9月3日から15日まで、都内六本木の国立新美術館で行われる第99回二科展に出展予定。

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