不法投棄から16年守り続けてきたホタルの里で待ってるよ

上古敷谷里山の会

 「光が波のようにさざめいて左右に動いたり、二つの群れが交歓するように行き来をしたあと、クヌギの木を這うようにのぼっていったりしたこともある。きれいだよ」とホタルが飛び交う幻想的な風景を誇らしげに話すのは上古敷谷里山の会会長の林忠男さん(76)と会員たち。
 古敷谷にある『ホタルの里』は、毎年6月にホタル祭りを開くと県内外から多くの見学者が訪れる。高滝から月崎へ向かう県道171号線から湯原観音付近を左に入り、木で作られた看板を山に入ると高台に東屋がある。ホタルが自生するのはそこから見下ろせる場所。蛇行した川をトンネルや切通しで流れを短くする川廻しで水田にした休耕田で、周囲はシイやクヌギなどの落葉樹で囲まれている。
 会発足のきっかけは、平成12年1月、山間の古敷谷地区に産業廃棄物が持ち込まれるようになったから。「ダンプの前にイスを積み上げて止めた」と当時の反対運動について林さんは語る。業者からの嫌がらせや脅しもあるなか、住民たちが警察、市やマスコミを動かし、6カ月後に「不法投棄をやめさせた」。しかし、「以前はキノコがたくさん採れ、ホタルもいた」自然豊かな土地にはトラック3千台分のゴミの山が残った。今、現場へ行く人はほとんどおらず、「山は緑で覆われている」
 平成13年2月、「一度捨てられたら自然はもとに戻らない。二度と古敷谷に産廃を持ち込ませない」という強い決意のもと、同じような条件の里山を監視していこうと初代会長林秀一さん(78)を中心に同会が結成された。30人近く集まった会員から土地や資材を提供してもらい、新たに整備したのが『ホタルの里』だ。不法投棄から会の活動まで、住民の取り組みは大学の研究者や学生が水質検査を行ったり、産廃現場や里山を視察したりしたこともあるほど注目された。
 現在は会員19名が毎月第2土曜日朝8時に草刈り機を手に集まり、地区で管理する農村公園を整備したあと、『ホタルの里』の手入れをする。周囲に水仙、菖蒲、モミジなども植え、散策できるように丸木橋を敷設、水をパイプで引き、ホタルが住める環境を保全している。会員の多くはここで生まれ育った。「みんなが集まる機会になる。一度途絶えた老人クラブも里山の会を中心に再開した」と箕輪傳さん(84)。地域の核にもなっている。慣れた手順で作業を終えると、会員たちはお弁当を囲みながら午後2時過ぎまでゆっくり過ごす。
 かつては全校20名程度いた富山小学校の子どもたちも里山整備の大切な役割を担っていた。授業の一環として季節ごとに里山の自然観察に訪れ、一緒に作業を行い、流しソーメン、川遊び、餅つきなどを楽しんだ。「子どもたちに杵の持ち方やマムシを捕まえて毒があることを教えた」と田中武夫さんは懐かしそうに話す。ホタル祭りには子どもたちが作った行燈をともしたそうだ。平成25年に富山小学校は統合され加茂学園となった。はじめの2年間は同学園の子どもたちを受け入れたが、人数が多すぎて安全が確保できないと今は断っている。「子どもたちが来ないと力が出ない」と会員誰もが言う。
 林さんは「古敷谷には小湊鉄道も走っていないし、アートミックスのプロジェクトが開かれる予定もない。これからどうなるのか」と寂しそうに語る。「古敷谷は『炭焼き音頭』が踊られるほど昔は炭焼きが盛んだった。再び炭焼き窯を作り、里山をから出る竹や木で炭を焼いて販売したい」とも考えるが、実現は遠い。
 先細る話ばかりのようだが、小さな希望もある。ホタルは数年前から生息域をひろげ、古敷谷川にかかる7つの橋周辺でも眺められるようになった。「各橋で違う飛び方を楽しめる」そうだ。高校生になった富山小の卒業生が友達を連れて、里山に遊びに来てくれたこともある。若手の事務局矢代弘一さん(54)は2、3カ月に1度、東京などに住む高校時代の天文部仲間と星空観察をしているという。
 16年前の産業廃棄物の持ち込みは阻止したが、いつ起こるかわらない不法投棄に対する警戒は怠ることができない。子どもたちとともに守ってきた里山を、「高齢化と人口減少のなかでどうやって引き継ぐかが課題」。古敷谷地区の世帯数は175戸、人口は378人(9月現在)。中心部を流れる古敷谷川は市民の飲料水となる高滝ダムの水源となっている。

問合せ 林忠男さん
TEL 0436・96・0131

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