十九堂参り ― 北青柳 ― 12年に1度行われる女性たちの祈り

 関東地方に今も残る習俗に子安講がある。結婚した女性は地域の子安講に入り、定期的に集まり、子授け、安産、子どもの無事を祈る念仏や和讃を唱え、飲食をともにする。その始まりは庶民の間で観音や地蔵信仰が盛んになった江戸中期だと思われる。ご本尊は血の池地獄から女性を救うと信仰された如意輪観音や聖観音、子どもを抱いた子安観音など。地域によっては旧暦の19日に拝んだことから、十九夜講といったり、石仏を十九夜塔と呼んだりする所もある。家長制度の厳しい時代には夫や姑に気兼ねなく外出できる楽しみの場でもあったのだろう。年長者から地域のしきたりや子育てについても学ぶことができた。嫁が入ると姑となった女性は抜ける。しかし、最近は入る若い女性が減り、高齢女性や婦人会などが代行するようになり形も変化している。
 3月、市原市北部で十九堂参りが行われた。十九堂参りとは、酉年3月初酉の日に子安講の女性たちが、子安観音などの納められた地域のお堂を巡礼し、出産にまつわる祈りを捧げる行事。かつては徒歩で巡り、この世もあの世も安楽にと願うお札を貼り、太鼓を叩いて和讃を唱えたという。お堂では講を抜けたお年寄りたちがご馳走を出してお接待をしたらしい。講同士が出会うこともあるので、お互いの近況を知る場にもなっていたようだ。
 郷土史を研究する青柳至彦さんによると「十九堂参りは市原市の海岸寄りの養老川の平野部にある地域に残る珍しい習俗。今年は白塚、北五井、新生など20以上のグループが3月の土日に行った。君塚では40人ほどがバスで回った」という。
 「12年に1度の行事。地域の民間信仰が失われていくなか、12年後には消滅してしまうかもしれない」とシティライフに情報を寄せてくれたのは北青柳地区に住む小倉澄夫さん。3月11日、北青柳地区では女性17人が北青柳公民館に集まり、榊やお線香をお供えし、如意輪観音の掛け軸に祈りを捧げた。
 小さな太鼓を叩き、独特の拍子で唱えたのは十九夜念仏と観音前念仏。「きみょうちょうらい かんぜおん 十九夜 十九夜(中略)血の池のがれるお念仏は南無阿弥陀仏」と仏の教えを平易な言葉で唱える。歩いて旧青柳村の総神社、若宮八幡神社の子安様にお参りしたのち、車に分乗してお堂を回る。各お堂に着くと、75歳になる歳頭の小倉安子さんがお札を貼り、女性たちは順番に子安様をお参りした。
 順路は松ヶ島から出津、飯沼、谷島町、七つ町、金川原、柏原、白塚の寺院敷地内にある公民館や寺のお堂を回る。白塚跨線橋近くの橋で今津川にお札を流し、今津地区から西青柳の工場に囲まれた明王院、如意輪観音像が刻まれた女性の墓石が並ぶ養福寺へ。青柳台では正福寺と光明寺で拝んだ。
 無人のお堂もあったが、観音像がご開帳され、茶菓を用意して女性が待つ所もあった。時代は変わっても、お接待の心は残っているのだ。白塚、七つ町、飯沼、新田など他地区のお札が貼られた北青柳公民館に戻り、女性たちはそのまま昼食を共にした。
 北青柳では、以前は2日かけて徒歩でお堂を回ったが、昭和56年は20~30人で自転車、平成5年からは車で移動するようになった。小倉澄夫さんが「母は新調したばかりの高価な着物を着て汚れるのも構わずお参りをした」と昭和32年の10歳のころの記憶を話すと、今回、一緒に回った神奈川県在住の女山伏、本田晶子さんは「盛装した若い女性が連なった様子は華やかだったでしょうね」と当時に思いを馳せる。
 千葉県立中央博物館大利根分館の榎美香さんは「関東、特に利根川流域では子安講が盛んですが市原にもこのような行事があるのですね」と話し、千葉県教育庁文化財課の小林裕美さんは「酉年に行うのは、翌年の戌年を穏やかに迎えるためだったのでは」と推測する。犬はお産が軽く多産のため安産の象徴とされた。戌年を特別な年と考えたのかもしれない。また、会食中、女性たちからは「昔は母犬が死ぬと酉年でなくても十九堂参りを行ったと祖父から聞いた」という話も出た。安産であるべき母犬の死は忌むべき出来事だったようだ。
 他に「若い頃先輩から拝み方や太鼓の叩き方を厳しく習った」、「昔は嫁が入ると講を抜けた。何度も参加するのは気が引ける」などと話す高齢者もいた。小倉さんの妻佐久子さんは「昔のお産は命がけ。病院で出産する今の若い女性には理解できないかもしれない」と寂しそうに話していた。

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