障がいを負ったからこそ見えた光とは

イラストレーター 前田健司さん

 市原市在住の前田健司さん(45)は、自宅のパソコンに向かいながら体調の許す限りイラスト制作に打ち込む日々を送っている。作品は鮮やかな色の動物や花、そして人物や風景まで様々。どのイラストからも音声が聞こえてきそうなほど生き生きとした姿が描かれている。
 だが、その制作風景に目を見張る。車椅子に座った前田さんが口を使い、慣れた様子でパソコンを操作して描いているのだ。彼が頸髄損傷を負ったのは2009年3月のことだった。「私は東京生まれなのですが、20代前半からずっとサーフィンにはまって千葉に毎日のように波乗りに来ていました。当時、首都高のメンテナンスをする会社にいたんですけど、夜7時くらいから夜中3時まで働いて、そのまま海に来て4時間ほど波に乗って、帰って夕方まで寝るという生活だったんですよ」と、健司さんは振り返る。
 妻の千佳子さんと出会い、結婚してから回数は減ったもののサーフィンを愛する気持ちは変わらなかった。「彼が事故に遭った時、娘は9カ月でした。出掛けてから3時間くらいしたら携帯が鳴って嫌な予感がしましたね」と言う千佳子さん。「波から落ちて、海底の岩に首の後ろをぶつけたんですね。一瞬痛みはありましたけど、大抵じっとしていれば海面に浮くので慌てないんです。でもその時は、自力で海面に顔を出せず焦りました」と、当時の記憶は生々しく残る。  近くにいたサーフィン仲間などに救助され、そのまま君津中央病院へドクターヘリで搬送された。レントゲンの結果、首の骨がずれ、神経も断絶していることが発覚。手術をしたものの、初めは自発呼吸さえ難しい状況が続いた。食事は管を通して胃に流し込み、痰の吸引を何度も繰り返す。「その後、半年ごとに千葉県内のリハビリセンターや病院へ転院を繰り返しました。でも、私のような首から下が全く動かない重度の頸髄損傷患者を受け入れた経験は浅いようで、充分と言えるリハビリはどこに行っても受けられませんでした」と話す健司さんは、当時絶望の淵にいたという。
 不自由な身体での未来を想像できず、医師にはうつ病と診断され、千佳子さんに死を願う言葉を放つことが何度もあった。そんな中、家族を守ろうと千佳子さんが勧めたのは大分県別府市にある国立の重度障害者センターへの入所だった。

絶望からの転機

 「最初は嫌々でしたね。友達もいないし、遠いし。でも行ってすぐにカルチャーショックを受けました。そこは病院ではなく、自立訓練施設だったんですが、リハビリ環境も万全で、自分より年上の人が頑張っている姿は衝撃!」だったとか。開催されるパソコン教室でワードやエクセルの資格を取得し、事故から約2年後の2011年1月、初めてワードソフトで描いたのはチューリップの花だった。離れて暮らす千佳子さんや娘さんを喜ばせようと、枚数を重ねていく。 
 その手法は、「写真やイラストを画像で貼りつけてなぞっていく感じ」といい、今でこそ口でのパソコン操作は慣れたが、初めはメール2行に20分位かかったとか。だが、学生時代に漫画を読み描きするのが好きだったという健司さんには、とてもマッチした気持ちのリハビリだった。平成23年に『第30回肢体不自由児・者の美術展』に応募したイラストが佳作賞を受賞した頃には、「絵で頑張ってみようかな」と気持ちが前を向けるように変化していた。
 その後、市原市へ戻った健司さんは、デイサービスに通い、家族やケアセンタースタッフの手を借りながら生活し、体調のいい時は毎日3時間ほどパソコンに向かう。今までにフェンシング大会のバックボードイラストや書籍の裏表紙、短編アニメーションのイラストを無料で提供してきた。また、昨年3月よりフェイスブックに投稿し続けたイラストが認められ、現在は大手マネジメント会社であるエイベックス株式会社と契約し、アーティストとして制作できる環境になった。
 「娘は小学4年生になりました。娘の学校の広報誌の一部を制作したり、知人から絵を描いて欲しいと言われたり、頼られることがこんなに幸せとは思っていませんでした。これからは、娘がどこにでも連れて行きたい!と誇ってくれるような父親になることが目標ですね」と健司さんは語った。詳細は問合せを。

問合せ 前田さん
kanon615love@yahoo.co.jp
https://www.facebook.com/maedakenjiart

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